座敷童はあぐりと言った
投稿者:雨女 (4)
階段を下りきると、暗くてひんやりした空間が広がっていました。奥に何かがあります。木製の太い格子を嵌めた……座敷牢です。座敷童を飼ってると言った祖父の言葉が甦り、胸が早鐘を打ちます。
「誰かいるの?かくれんぼしてるの?それとも……」
閉じ込められてるの、とは聞けませんでした。だってその質問は、消去法で祖父か両親の誰か……あるいは全員が犯人だと言ってるようなものではありませんか。
震える声を張り上げて返事を待ってる間も、暗闇が押し被さってきて息が早くなります。
すると座敷牢の奥からおはじきが一枚弾き出され、靴の先に当たって跳ねました。
「座敷童さんの名前は?」
「あぐり」
「変な名前」
「お前は」
「愛」
「いい名前をもらえたね。可愛がられてるんだろうね」
座敷牢の中から聞こえてくるのは同年代の女の子の声です。座敷童は甲高く澄んだ声でなんてことない私の名前を羨ましがり、続けざま思いがけない提案しました。
「私にちょうだい」
「え?」
「名前。交換」
格子の隙間から片目が覗きました。続いてあんまりにも白すぎる顔が浮かび上がります。ああ、何年もお日様を浴びてないとこうなってしまうのかと納得しました。
ざんばらに伸び放題の髪は真っ白で、濁った目は栄養失調で殆ど見えておらず、なのに声だけを頼りに女の子がこっちを見詰めています。
格子の隙間から伸びた手が頬に触れました。枯れ枝のように痩せ細った指が瞼にかかりました。みすぼらしい座敷童がにっこり微笑みます。
「お前があぐりだ」
次に目を開けた時は母屋の和室に敷いた布団に寝かされ、祖父と両親が心配そうにこちらを覗き込んでいました。
「なんで言うことを聞かんかった!」
「ごめんなさいおじいちゃん……」
両親の話によると、私は蔵の前で倒れている所を発見されたのだそうです。
祖父に中に入ってないか何も見てないか問い詰められた私は、悪い事はしていないと嘘を吐きました。お仕置きが怖かったのです。
数日後、母がこっそり教えてくれました。あの土蔵の地下には座敷牢があり、何代か前の当主の末娘が閉じ込められていたそうです。
「ご先祖様には娘ばかり十一人いた。今度こそ跡取りが、と期待をかけたのにまた女の子だったもんで怒り狂ったんでしょうね。その子で打ち止めになりますようにって、あぐりと名付けて座敷牢に閉じ込めたの」
ご先祖様はあぐりを幽閉した罪悪感を打ち消す為に、あるいは彼女の存在を隠蔽する為に、土蔵にいるのは座敷童だと言いふらしたのだそうです。
もしここで話が終わっていれば、座敷童にさせられた少女に素直に同情できたのかもしれません。
土蔵に内緒で入った三年後、父が事業に失敗しました。私たち一家は莫大な負債を抱えて離散します。祖父は心労が原因でぽっくり逝ってしまいました。
両親が蒸発後、私は施設に放り込まれます。そこには同じ名前の子が3人いました。私は最後の愛です。紛らわしいので皆苗字で呼びます、誰も名前で呼ばなくなります。
施設では先生や子どもたちにいじめられました。
良き
文章も上手くて面白かったです。
若干尻すぼみ感もありますがリアルといえばリアル