まばたきした先にいるもの
投稿者:ねね (1)
妹が倒れたのは、曾祖母(大きいばあちゃん)が亡くなって、親戚で集まっているときのことでした。
母方の祖父母の家の居間で、親戚のおじさんやおばさんがみんな集まって、曾祖母の思い出話をしていました。いなかの、たまに集まった親戚たちのことですから、おとなはもうたいがい酔っぱらっています。
私と妹は、祖父母と親戚たちとのよくわからないお話を、お茶うけの和菓子をもぐもぐと頬張りながら、聞くともなしに聞いていました。おまんじゅうがぽろぽろ口元からこぼれて、妹が母になにか云われていました。
少し後に、私のとなりにくっついていた妹の体が急に、ぴん、とこわばって、震えだしたかと思うと、最後にはうっと云って倒れてしまいました。
これは後で妹から聞いた話です。
私と同じように妹もおとなたちのお話をぼおっと聞いていたのだそうですが、何人も座っている親戚のなかに、亡くなったはずの曾祖母をふと見つけたと云うのです。生前には見たこともないような、お面のような顔をしていたそうですが、妹の視線に気づくと、目だけでにっと笑ったそうです。
まずい、と反射的に思って、妹は目をそらしました。
まばたきすると、今度は視線の先に、曾祖母がちょこんと座っています。天然パーマのくりくりした白髪の断髪が目に入ります。たまらず、目をそらしました。
…また、そこに、曾祖母がいるのです。にっと笑った目元が、祖父の肩越しに見えます。
目をそらす。そらした先にいる。
目をそらす。そらした先にいる。
目をそらす。そらした先にいる。
消えた!
いつのまにか、目を動かすことしかできず、手足の自由がきかなくなっています。だんだん息が苦しくなって、目だけで曾祖母を探しますが見当たりません。
「やっと気づいた」
右耳の近くで聞こえました。気づくと、右に曾祖母の横顔が見えます。そのまま、浅くしか呼吸ができずに妹の意識は遠のいていったのだそうです。
私たちは急に倒れた妹を起こそうと肩をゆすぶったり、頬を軽く叩いたりしましたが、何でも、妹はやさしく頭をなでられているのに気がついて目を覚ましたそうです。つんとする着物の防虫剤の匂いも、確かに妹にはしていたと云います。
お葬式が済んでからは、妹にも曾祖母が見えることはなくなったとかいうことですが、それでも、私と話していると視線がときどき私の後ろに行っているのがわかります。あの子には、いったいなにが見えているのでしょう。
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