おかえり、おじいちゃん
投稿者:心結 (5)
最後にきれいなトカゲをみたのは、電車を待つ無人駅のホーム。太陽に照らされてきらきらと光っているように見えました。
長い電車の旅を終え、マンションに帰ってくると、マンションの入り口の前に近所の子供たちが集まっていたのです。
なんだろう、と思いながら私ものぞいてみたらそこにはあのきれいな色のトカゲが。
嘘だ、そんなはずはない。と自分に言い聞かせていましたが、だんだん怖くなり、家に帰って両親にこれまでのことを話しました。
すると両親は顔を見合わせて、父が静かに語り始めました。
それは多分、おじいちゃんだろう。お父さんが子供のころに一緒にきれいなトカゲを助けたことがあるんだ。
駅の階段のところに弱っていたトカゲを。
きれいな色のトカゲは子供のしるしでね、まだ小さいのにかわいそうだって連れて帰ってばあちゃんにものすごい叱られたんだよ。
きっとおじいちゃんはあのトカゲに姿を変えて、みんなに会いに来たんだね。お前のことは遠く離れていながらもいつも気にかけていたんだよ。大きくなったか、写真を送ってくれって。会って抱っこして、学校の話も聞きたかっただろうに、叶わなかったけどあきらめきれずに姿を変えて会いに来るなんて、本当におじいちゃんらしいね。
と父は懐かしそうに語りました。
その話を聞いた途端、これまでになかった「悲しい」という感情がどこからか湧き出てきて、もうおじいちゃんに会うことはできないんだと実感しました。
涙がたくさん出てきて、もっとお話しすればよかったと子供なのに後悔もしました。
あの日を境に、マンションの1Fではたびたびきれいなトカゲを見かけるようになりました。トカゲも成長をするはずだし、成長したら茶色くなるはずなのにずっときれいな色のままでした。
あれから長い年月が経ち、私は就職し実家を離れました。
時々、実家に帰省をするとなんとなくあの花壇を見に行くのです。
今もあのきれいなトカゲは姿を変えることなく、花壇にいくと必ず姿を現すのです。
声にこそ出しませんが、「おじいちゃん、ただいま」とトカゲに語りかけてから家に入るのが私の帰省ルーティーン。
亡くなった人が姿を変えてこの世に存在し続けるなんて、だれも信じないと思います。
でも、おじいちゃんが亡くなった日に見かけたあのトカゲは、今もずっと私のそばにいるのです。
その花壇で、ほかにトカゲを見かけたことはありません。普段はどこにいるのかもわかりません。
何もトカゲになんてならなくても、と我が家では笑い話になっています。
亡くなった方は、意外にも身近に、信じられないような形で私たちを見守っているのかもしれません。
コロナでなかなか田舎にいくことができずにいますが、来年こそはお墓参りにいけるかな。
お墓にも家にも必ずいるあのトカゲ。
大好きだったビールとお饅頭をもって、今年こそは会いにいこうと思っています。
おじいちゃん、いつもそばにいてくれてありがとう。これからもずっと見ていてね。
亡くなった方が蝶々に姿を変えるなんて話は聞いたことがありますが、トカゲもあるんですね
素敵な話だと思いました