C子のおみくじ
投稿者:游玄 (1)
かなり昔の話。
ガチガチの理系人間の私は、科学で説明できないことは信じない性格だが、この出来事は単なる確率では説明不可能な不思議な力が存在していることを認めざるを得ない。
12歳の小学校6年の卒業式を終えた3月、同じクラスだった男8人女5人で、高尾山に行こうということになった。男8人は、女5人の中に、それぞれ目当ての女の子がいて、告白もできないまま、卒業式を終えていたのだった。
女5人の構成は、特に可愛い子2人、普通の子2人、意地悪っ子1人で、私は特に可愛い子のうちの一人のC子が好きだったが、12歳の当時の私は、好きだと言うこともできなかった。C子は、4月に引っ越すことになっており、センチメンタルな気持ちだった。
高尾山に着いて、小6の我々は、薬王院のおみくじを引いてみようということになった。それぞれが、心の中で願いを言ってから、筒を振って、棒を出した。私の棒の番号を薬王院のおばさんが箱を開けてくれると、小吉だった。
大吉が出た者、中吉がでた者が続き、小6の我々は、大騒ぎして喜んだり、友達のおみくじ内容を読んだりしていた。だが、私はC子のことが気になっていて、大騒ぎには加わらなかった。そう、C子は何故か、おみくじを引かなかったのだ。
私だけでなく、みんな、C子がおみくじを引こうとしないことに気付き出した。「何でやらないの?」「おみくじ引きなよ」友達が促されて、ようやくC子は、おみくじを引いたが、いつもニコニコしているC子の顔が引きつっていることに私は驚いた。「何で?」
C子がおみくじを引いて、出てきた棒の番号を薬王院のおばさんが箱を開けると、凶が出てきた。C子の顔はさらに引きつった。私も何だか気まずい気持ちになった。薬王院のおばさんはC子に「もう1回、引いていいよ」と言った。
我々は気を取り直して、全員がC子のおみくじに注目した。C子も緊張して、おみくじの筒を振っている。「良いのが出て」私も心の中で、念じた。出てきた棒の番号をおばさんに見せると、おばさんは箱を開けた。箱の中のおみくじをC子に渡すと、C子の顔は曇った。
2回目のおみくじは、また凶だった。私は今まで、凶のおみくじを見たことがなかったので、驚いていた。だが、C子もおばさんも、驚いてはいなかった。おばさんはまた言った。「もう1回、引いていいよ」C子も再チャレンジした。
結果はまた凶だった。我々はみんな、シーンとなって、C子のおみくじを見ていた。みんな凶なんか見たことがないのだろう。「もう1回、引いていいよ」おばさんは平然と言い続けた。C子も、もう平然としていた。C子が嫌がっていたのは凶より、友達に知られることだった。
「私って、いつもこうなの」C子は、独り言のように言った。おみくじを引くといつも凶が出る。そんな確率って?理系人間の私は小6ながらに計算しようとしたが、計算するには、おみくじの中の凶の数を知らなければならなかった。
57歳のおじさんになって、インターネットで調べてみると、高尾山薬王院のおみくじには、凶が多いとなっているが、あの時のC子のように、10回引いても凶が出続ける確率なんて、単なる偶然では、説明できない。C子は10回続けて凶が出たのだ。
11回目にやっと小吉が出て、C子も我々もホッとした。高尾山を登りながら、C子が話したことは、C子はいつもおみくじを引くと、どこでも、誰といても、凶が出るということだった。薬王院のおばさん曰く、「こういう人がいる」とのことで、不思議ではないとのこと。
その日から、C子と私は会うこともなかったが、高2の春に偶然、ある町でばったりと出会ったことがある。「O君!」とC子から声を掛けてくれたので、私は嬉しかった。4年振りに会うC子は相変わらず可愛かった。
五年ぶりかな?
おみくじの中身の割合わからないけど1/4だとすると100万分の一ぐらいですかね?