楽しき旅路への誘い
投稿者:YU-KI (1)
短編
2021/08/23
20:41
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15年程前、末期癌の義父の付添いをしていた頃の経験です。
その頃の義父は既に治療の術は無く、激しい痛みを緩和するモルヒネを投与されておりました。私は、当時幼稚児の娘と共に、病室で寝起きをしながら義父の付添いをしておりました。
日中のほとんどを強い薬剤により微睡んで過ごす義父。目覚めても幻覚を度々見るようになっており、亡くなった親族が「ほらそこに」「ほらあそこに」という具合に義父を頭上から見下ろしているのだそうです。
夜間に暴れる事もあり、ベッドサイドの椅子にもたれてやっとうとうとした明け方、寝巻きの義父がベッドに歩み寄って来ます。但し、その姿は正に半透明で、しかも、ベッドの上には紛れもない義父が寝ているのです。2人の義父を見ながら、どちらが本来の義父か咄嗟に考えておりますと、歩み寄った半透明の義父は、そのまま寝ている自分の上に仰向けに重なると程なく吸い込まれるように消えていきました。
数日前から、目覚めるほんの僅かな瞬間に「○○(義父の好きであった地名)に行って来た」と度々話していたことから、義父はこうして身軽な姿でこの世の最後の旅をしているのだと思いました。ある明け方、その日も義父のベッドに寄り添いウトウトしておりますと、私の頭上に雲に乗ったもう一人の義父が現れ私に手を差し伸べます。良い所に行って来た。お前も一緒に行こう。楽しい旅に誘うように、私をあの世の道連れにしたかったのでしょうか。
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