処刑公開。
投稿者:小鳥遊椿 (1)
高校時代に友人から聞いた話です。因みに彼女とは今でも仲が良く、月1で会っています。
友人の名前をKとします。Kはオカルトが大の苦手らしく、私が少しでも「最近見たホラー映画が‥‥‥」「テレビで心霊特集がやっててさ、」等話そうものなら、苦虫を噛み潰したような顔になり、「止めて!夜眠れなくなる!」と叫び出すくらいには怖がりでした
そんな様子なので、Kの前では大好きなホラーものの話は一切しないようにしていました。
ある日のこと。その日はどんよりとした曇り空で、暑くもなく寒くもなくといった日でした。季節がいつだったかは忘れましたが、やけに生温い風が吹いていたことは覚えています。
放課後、私とKは何をするでもなく、だらだらと教室に残って、とりとめもない話をしていました。一応電気は点いていましたが、何となく教室内は薄暗く、数センチほど開いた窓からは、相変わらず生温い風が入ってきて、頬や首筋を無駄に撫でては流れていきます。
「あのね、昨夜変な夢見たんだ」
不意にKがぽつりと呟きました。興味があった、というより、会話も尽きていたので、「へー。どんな夢だったの?」と尋ねると、Kは無表情になり、感情のない一本調子な声音で、つらつらと話し出しました。以下はKが語った内容になります。
◎昨夜、12時くらいにベットに入ったんだ。いつも寝付きが悪いから、大体1時間くらいゴロゴロしてるのね。昨日もすぐには眠くならなかったら、目は瞑っていたけど寝てはなかったの。
そしたらさ、急に体がドクンと波打って、動かなくなったの。体全体がセメントで固められたような感じって言えば分かりやすいかな。
動かそうにも重くて、自分の体なのに鉛みたいで、指先1つ動かせない。嗚呼、これが噂に聞く金縛りなんだなって思った。怖くなかったと言えば嘘だけど、意外に冷静な自分もいたよ。まあ、死にはしないだろうくらいに考えてた。
体は動かないけど、眼球だけは動いたのね。ベットの端に誰かがいるのが見えた。江戸時代風?の女の人がいて。髪の毛を結って着物を着てた。その人、這い蹲るようにしてベットの上をあちこち移動してるの。声は聞こえなかったけど、何かに怯えて、叫んでるようだった。何で立ち上がって逃げないんだろうと思ったら、両足首から出血してたの。怪我してて、痛くて立てなかったみたい。
そしたら、別の人も見えた。多分、この人も江戸時代の人なんだと思う。髷を結って陣羽織を着た男の人。興奮してるのか顔が真っ赤で、額には青筋が幾本め浮かび上がってた。肩で息しながら、目玉をギョロギョロ動かして何かを探してるみたいだったよ。
女の人が男の人に気付いて、這い蹲ったまま、顔を歪ませた。口がへの字になって、少し般若のお面みたいだった。尻もちをついたまま、ずりずり後ろに下がっていく。男の人はギョロリと女の人を睨むと、腰に差してあった長い日本刀を引き抜いて構えた。
それからあっという間に、女の人は首を刎ねられた。
斬られた傷口から血柱が噴き上がって、ベットから壁から、私の頭や頬にまで血が飛び散った。噎せ返るような鉄の臭いに吐き気がした。
斬られた首がゴロン、ゴロンとベットから落ちた。
それからは覚えてない。気付いたら朝だった。当然だけど金縛りは解けてたし、壁にもベットにも血の跡はなかった。夢だと思うんだけど、妙にリアルで生々しかったんだよね。
‥‥‥そう話すKは、やはり無表情で。いつもニコニコしていて愛想のいい彼女からは想像がつかないほどにぶっきらぼうな声音でした。話の内容より、Kのほうが不気味に思えました。
翌朝、昇降口で会ったKに「昨日は怖い夢見なかったのー?」と挨拶代わりに聞くと。Kはキョトンした顔で「何、怖い夢って?」と聞いてきました。私はKがふざけてるのだと思い、「昨日、話してくれたじゃん。江戸時代?の男の人が女の人の首を刎ねるって話だよ」と言うと、Kは途端に顔を顰めました。
「怖い話は止めてってば。私がホラー苦手なの知ってるくせに」
今度は私がキョトンとなる番でした。幾ら私が昨日のKから聞いた夢の話をしても、Kはそんなこと話した覚えは絶対にないと言って聞かないのです。嘘をついているようには見えないですし、嘘をつく理由も見当たりません。わけが分からなくなって、とりあえずこの話はおしまいにしました。
あれ以来、Kとはその話をしていません。今でも仲の良い友人ですが、あれは一体何だったのでしょうか。
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