後悔
投稿者:希侑 (3)
小説家の田村さんは、念願の一戸建てを購入した。大通りに面してはいるので車移動の便が良く、かつ田舎で車の往来が少なく執筆にも集中できると思ったことが決め手だった。
引っ越しを終えてすぐ、一大決心に拍車をかけるようにいくつもの執筆依頼を引き受けた彼女は、その日は連日の徹夜がたたって夕方なのに大変な眠気と頭痛に襲われていた。
そんなとき、トントントンと、何度も玄関のドアがたたかれた。あまりの体調の悪さに無視を決め込んだ彼女だったが、「あけてぇ」というその声は隣家の幼稚園くらいの少女のものだった。
「おうち間違ってるよー」と返事をしたが、思ったより声が出ないのか、少女は幾度となく小さく細い声で「あけてぇ」と言いドアをコンコンとたたいている。
「あなたの家は隣でしょ」と少しイラつきながら答えるも、声が届かないのか少女は立ち去る気配がない。再び「あけてぇ」と少女の声。連日の疲れもあって我慢できなくなった田村さんが「うるさい!」と怒鳴ると、それきり少女の声はしなくなり彼女は意識を失うように眠りに落ちた。
夜、チャイムの音で目を覚ますと、玄関の前には警察と近隣住民たちによる人だかりができていた。
「少し確認していただいてもよろしいでしょうか」警官の声に従い玄関を出ると、そこには血だまりができていた。
「隣の家のお嬢さんなんですが、ここの通りで車にはねられたようでして。気が動転していたのか、どうやら現場からお家のあったこちらまで歩いてきたようなんです。しかし近所の人が発見した時にはもう手遅れで、何かご存じでしたらお話を伺えないかと思いましてね」
そこには少女をかたどったような血痕が残っていた。
その後しばらくしても、少女の血痕は取れないままだ。引っ越しも考えたが、新築であるにも関わらず査定価格は二束三文。「もうずっと、ここに住み続けなければならないのかしら」と田村さんは言う。
査定価格が気になる以前に
良心の呵責はないのかしら?