黒い靄が見えるようになった
投稿者:煙巻 (8)
ある日、俺は黒い靄が見えるようになった。
それは唐突な事だった。
俺の同級生にAという男が居る。
特別親しいわけでもないが、話すときはそれなりに話す事もあるし、二人きりで遊んだことはないがクラスの何人かがいる時は遊んだ事がある、そんな距離感の友達だ。
そんなAが少しおかしくなったと話題になった時、まさに俺はAに黒い靄を見るようになった。
「あいつ何やってんだ?」
いつものように教室の後ろで友達と話していると、不意に誰かがそんな事を言った。
そいつの言葉で全員が教室の一点に顔を向けたので、俺もそっちを向いて見れば、Aが何か空気を手で払うような不自然な動きをしていた。
俺も「虫でもいるのかな」とボソッと思った事をこぼして笑っていたが、何かAの前に黒っぽい靄が見えた気がして、一瞬「え?」と目を凝らしたらすぐに靄は消えた。
また別の日。
俺が先に学校に居て友達と教室の窓辺で駄弁っていると、ちょうど校庭を見たらAが登校してたので何となく視界に入ったAを見ていた。
すると、Aの背後にやっぱり黒い靄みたいなのが付いていて、俺は当初視力でも下がったかと思って何度も眼をぱちくりさせてAの周辺を注視してみた。
でも、黒い靄みたいなものはスススーって感じで残像のようにAについて進んでいた。
そんな事がしばらく続いたから、さすがに鈍い俺も自分が他の人が見えない何かを見ている事に気が付いた。
それが幽霊という悪霊の類だと思い到ったのは、その黒い靄から物凄い悪寒と言うか、悪意に満ちた嫌な気配を感じ取れるようになったからで、近々Aに何か良くない事でも起きるんじゃと冷や冷やしていた。
事実、Aは日増しに挙動不審が目に付くようになってて、顔色も寝不足のように冴えない。
俺は頭のどこかでAに関わったらダメだと自制が働いていたが、どうにも黒い靄が気になって、ある日思い切ってAが一人の時に聞いてみる事にした。
「なあ、最近何かあったの?」
「な、なんで?」
廊下の窓から黄昏るように校庭を眺めていたAに訊ねてみると、Aは困惑したような表情で俺を一瞥する。
振り向いたAの両目にはしっかりとした隈が浮き出ていて、正直不気味だった。
「いや、なんか黒いの憑いてない?」
「はあ!?」
率直に思った事を言った途端、Aは酷く取り乱したように声を荒げた。
「んなわけねえだろ!何もいねえだろ!ふざけんなよ!」
そして、突然Aは癇癪を起して俺を突き飛ばすと何処かに走り去ってしまった。
「いてッ」
俺は思いっきり尻餅をついた時に片腕を痛めたが、そんな事がどうでもいいと思えるようなものを見てしまう。
走り去るAが廊下を曲がる際、黒い靄が無地の着物を着た人の形になって、それが数人連なってAに続いているのが見えた。
はっきりと黒い靄が人の形になったのを目撃した俺は、しばらく唖然とこけたまま固まっていた。
今回の話も怖かったっす
怖い怖い
怖いとかじゃなくて、普通に超迷惑やん。
Aはもっと苦しんで呪われればいい。