某病院に棲む死神
投稿者:Yacht (1)
十数年前、私がある地方都市に住んでいた頃のお話です。
引っ越してきたばかりで気苦労の多い日々を過ごしていた私は倦怠感に苦しみ、自宅から車で15分程度のところにある、地元ではまあまあ知名度のある総合病院に受診しに行きました。
そして診察を終え、人気の少ない午後の待合室に何気なく座っていると、私の位置からは離れた席に独り座っていた、力ない様子で俯き沈んだムードを漂わせるある男性のもとに、何とも言えない異様なオーラを漂わせた小太りの中年男が小走りに駆け寄ってきました。そして何故か、中年男はその男性に寄り添うように着席しました。
見知らぬ男に密着されたはずの男性は気に留める様子もないようであり、その漠然とした奇妙さの漂う光景を不思議な気分で眺めていました。
すると、私の態度を訝しげに見つめていた、清掃を担当していた初老の女性が私に声を掛け、フロアの奥のほうに誘導しながら囁くのです。
「あたしこの病院、長いんだけど・・・、あんた、あの男が見えるんだね。あれ死神なんだよ。あれにくっつかれたらもうダメ。見えるんだったもうここ、来ないほうがいいよ・・・。それと、このこと誰にも言わないでね。」
恐ろしくなった私は以後の診察予定を全てキャンセルし、その病院に近づかないようにしていました。
しかし、それから数年後のある日のこと、仕事中、急な体調不良を訴えた友人がその病院に担ぎ込まれ緊急入院したとの連絡を受けました。
こみ上げる恐怖感を抑えながら彼の病床に向かうと、なんとあの中年男があの日のムードそのままに私と入れ替わるように病室から出てきて、すれ違いざまに私の耳元で「・・・無駄だ。」と囁きながら去っていきました。
私は平静を装いながら友人を見舞い、快癒を固く祈りながらその場を去りましたが、やはり程なく彼はこの世を去りました。
今、私は別の街で暮らしていますが、その時に感じた恐ろしさは消えることがなく、故人の思い出を回想するたびにフラッシュバックしてしまいます。
いかにもな風貌ではなく、小太りの中年男が死神というミスマッチ感がまた怖い
死神が見える人いるんですね。