作業ズボンを履いた兄
投稿者:ゆいC (4)
短編
2022/08/18
19:41
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実家に住んでいた頃、夕暮れどきのある日のことです。
私はリビングにいるよりも廊下に面している寝室のベッドで寝転がってケータイをいじっていることが多く、
その日も廊下に頭を向け、仰向けでケータイを操作していました。
ガチャリ、とドアの開く音がして誰かが中に入ってきたのです。田舎あるあるですが、鍵はかけておらず今思えば不用心だったと思います。
入ってきた人物は私のいる部屋に面している廊下を歩き、リビングに入っていきました。
寝転がった私は顔も確認せず、足元だけをみて作業ズボンを履いているから、神出鬼没な兄だと思っていました。
兄は不定期に帰ってきては突然姿を現さなくなるような人物だったので少しも不審に思いませんでした。
一言「おかえり」と言っても、無視されましたが兄から挨拶を無視されるのも常なので、普段と違うことなんてなかったのです。
その後30分くらいしてドアがガチャリと音を立てました。母が帰ってきたのです。
母はそのままリビングへと入っていきました。私は母を追ってリビングに向かうと、そこには母しかいませんでした。
あれ「兄が帰ってきてたはずなんだけど」と言えば母は「あいつは今仕事中だよ」と言って退けるのです。
母が帰ってくる前に鳴ったドアの開閉音は一度きり、しかも出るためには必ず私の近くを通らなければいけない状態です。
あの作業ズボンを履いた人は家に入ってきて、一体どこに行ってしまったのでしょう。
白昼夢であることを願うばかりです。
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