二階の笠
投稿者:匂わせ様 (3)
これは私が大学生の頃の話なのでもう10年以上前の話になります。
当時私は進学を機に一人暮らしをしていたのですが、父もその頃ちょうど単身赴任をしており、家計的には決して余裕のある状況ではありませんでした。
そのため実家からの仕送りは期待できず、少しでも家賃の安いアパートにということで築40年ほどのボロアパートに住んでいました。
当然、設備もかなり年期が入っており、お風呂はバランス釜、トイレは和式、エアコンもなく、唯一の利点は大学から徒歩10分圏内ということくらい。もちろんそんな物件なので、アパートは10部屋はありましたが空室が目立っていました。
当然、友人や彼女を呼んで使う気にはなれず本当に個人が生活する空間として使用していました。
私は当時、居酒屋でアルバイトをしており、帰宅が深夜になることも結構な頻度でありました。深夜手当がつき、さらにその店では22時以降のバイトには格安で賄いがでるのでかなりありがたかったのです。
その日も、バイトが終わり深夜2時頃に帰宅の途につきました。もちろん、電車やバスはないので徒歩での帰宅です。
歩いて30分ほどでようやく自宅のアパートが見えてきました。
ふと、二階に目をやると何か肌色に近い黄色の丸がグルグルと回っているのが見えました。
アパートに近づくにつれその物体が何なのかようやく分かってきました。
笠です。さす傘ではなく被る笠です。
それが二階の窓からグルグルと回っていました。しかも私の真上の部屋です。
何か違和感がありましたが、疲れていた私はおかしな物を干している人もいるもんだくらいにしかその時は思わず、帰宅すると風呂にも入らずそのまま就寝しました。
次の日学校に向かう途中、ふと何気なくアパートの二階を見ると、昨日の違和感にようやく気づきました。
二階はすべて空室だったのです。それを見て、昨日の状況もおかしいことに気がつきました。
笠がグルグルまわっていたとするなら、相当な風が吹いていないとおかしいはずです。しかし、そんなに強い風が吹いていた記憶はありません。
その時嫌な想像が頭に浮かびました。笠を被った女が窓から頭を出しグルグル回していたのではないか、と思ったのです。(当時は何故か女だと感じました。)気味が悪いとは思ったものの、引っ越す訳にもいかず、そのまま結局大学4年間はその部屋に住み続けました。
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