トイレの見知らぬおばさん
投稿者:コメダ (3)
ある夏の夕暮れ、私は母親と親戚のお見舞いに市内の総合病院を訪れていた。
入院している親戚の元気そうな様子に安堵し、そろそろ帰ろうかと、母と病室を後にした。2階の病室から1階に降り、誰もいないシンとした薄暗い廊下を歩いている時、「トイレに行ってきてもいい?」と母が言った。
「私も行きたいからそこのトイレ寄って行こう」と、小さな女性用トイレに入った。
そこのトイレは入り口を入ってすぐ左手に鏡のついた洗面所があり、奥に2つの個室が並んでいる小さなトイレだった。
母が入り口入って手前の個室に。私が、その奥のトイレに入った。
そのトイレは流すボタンが少しわかりづらい作りになっていた。
先に個室から出た私は、入り口すぐ左手の洗面所で手を洗っていた。
すると、「あれ?ん?」という声が聞こえた。
あ、母は流すボタンの位置がわからないのだな。と思った私は、
「流すボタン、横じゃなくてトイレの真後ろにあるからー」と声をかけた。
それでも「え?ん?何?何?」という声が聞こえたので
「だからボタンは後ろだよ!」と話しているとジャーと水を流す音がし、母が個室から出てきた。
「あんた、さっきから何をはなしているの?」と洗面所で手を洗いながら母が言う。
私「え?流すボタンがわからないみたいだから、教えてたんだけど」
母「私何も言ってないけど?」
すると突然、私が利用した奥の個室から勢いよく見知らぬおばさんが出てきた。
「え?これ流すの難しいの?何?え?」と訳の分からないことを言いまた個室に入っていった。
母と目を見合わせながらトイレを出る。
あれ?あのおばさん、いつの間に個室に入っていたのだろう。
入り口は一つしかなく、洗面所で手を洗う私の後ろを通らないといけないのに。
扉を開く音もしなかった。人が通る感じもなかった。
あのおばさんは一体何者だったのかいまだに不思議だ。
鏡にも映っていなかったのだから。
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