数年前、小さなゲームセンターでアルバイトをしていました。
意外にも、ご高齢のお客様が多く、比較的治安の良い店舗だったと思います。
ある日、30代前半 主夫の方がアルバイトで入社しました。
私と同じく遅番(夕方〜ラスト)の勤務でした。
人柄も業務態度も良く、順調に仕事を覚えていた主夫さんでしたが、勤務中に体調を崩し早退しました。
無遅刻・無欠席だった主夫さんは早退や欠勤が続くようになりました。
数日の欠勤の後、主夫さんが出勤されましたが頬は痩せこけ、髪も肌もボロボロでフラフラとした足取りでした。
お客さんのいないタイミングを見計らい、私は主夫さんに「大丈夫か?」と声をかけました。
主夫さんは生気のない目で私を見つめ、意を決したようにゆっくりと話し始めました。
主夫さんにはファンのような女性のお客さんがおりましたが、その女性が勤務中だけでなくプライベートでも会いに来ると言うのです。
ゲームセンターからの帰り道、夫婦で出かけた隣町のショッピングモール、夜中のコンビニ、そして、とうとう自宅の前。
奥様を怖がらせることは出来ない、とひとりで抱え込んでいたそうです。
特に話しかけられたり追いかけられることはなく、ただじっと、主夫さんを見つめるだけ。
私もゲームセンターで見かけることはありましたが普通の女性にしか見えませんでしたので、正直疑い半分で聞いていました。
数日が過ぎた頃、主夫さんは出勤し個人ロッカーを開いた途端に小さく悲鳴を上げました。
セキュリティのしっかりした部屋の中、さらに鍵の掛かった個人ロッカーの中には30cmはあるであろう長く黒い髪の束が乱雑に放り込まれていたのです。
吐き気を抑えながら裏口から外へ飛び出した主夫さんを追おうとしましたが、スタッフを呼ぶベルが鳴りました。
急いで向かうと、件の女性が長かった髪をばっさりと切った姿でゲームセンターから出ていくのを見かけました。
誰が片付けたのか、髪の束はいつの間にか消えており、それから主夫さんとは連絡がつかなくなり、女性もゲームセンターへ来ることはなくなりました。
主夫さんが度々見かけた女性は、本人だったのか生霊だったのか。髪の束は幻覚だったのか。
今では確かめる術もありません。
こわ…
有り得そうで怖すぎる…
怖いね…