記念写真
投稿者:細川康二 (1)
これは私が大学ニ年生の頃の話です。当時特にやる事がなく暇だった私はゴールデンウィーク中に親族の紹介で一人で写真館を営む叔父の手伝いをすることにしました。
叔父とは面識が少なかったのですが実家の庭にヤシを埋めたり、アロハシャツで葬式に来たりと叔父は変人でインパクトが強く、私は苦手意識がありました。
私が生まれる前、叔父は十八歳で結婚した妻を二十歳で喪っていて、奇行の原因はそれだろうと私は長らく考えていましたが、母曰く「奥さんが亡くなってから大人しくなった」とのことです。
そんな変わり者の叔父の元を、私は高給に釣られ訪れたのです。
駅まで迎えに来た叔父は私を見るなり「ガッチリしたね〜〇〇」とだけ言って、タバコ臭い軽トラに私を乗せました。少しの間車に揺られ、到着した写真館は意外にもこじんまりとした木造のお洒落な建物で、正直驚きました。
中も掃除が行き届いており、てっきり汚い部屋の掃除をお願いされるのだと思っていた私は肩透かしを喰らいました。
部屋を見回していると、窓辺に飾られた一枚の写真が目に付きました。写真には真ん中に仁王立ちした叔父とその横で微笑む綺麗な女性、そして後ろにはスカイツリーが写っています。
少しして叔父が入ってくると、仕事の内容を説明してくれました。私の仕事は写真館の倉庫にある物を全て裏庭に積んで欲しいとのことです。何でも倉庫を改装して民泊を始めるのだとか。
叔父はそれだけ私に伝えると「用事がある」と言って何処かに行ってしまいました。私は一瞬、あの写真の女性を思い出しましたが、直ぐに忘れて倉庫に向かいました。
倉庫も清掃が行き届いていて、大雑把そうな叔父との乖離が不気味にすら感じます。作業内容は単純でしたが量が多く、大きな狸の置物を外に置く頃には日が落ちかけていました。
倉庫の中は粗方片付き、あとは小物類を残すのみとなったその時です。私は不意に部屋の隅の方に埃を被ったピンク色のアルバムを見つけました。
アルバムは色褪せ、如何にも年代物といった感じです。私は奇怪な叔父の為人がこのアルバムに詰まっているような気がして、アルバムを開きました。
アルバムの一ページ目は今よりも大分若い叔父がピラミッドやエッフェル塔と一緒に写っているのが大半でした。二ページ目も同じ様な写真ばかりで、どうやらこのアルバムは叔父の旅行を纏めた物の様でした。
しかし、三ページ目に先程と同じ様な写真の中に一枚だけ異様な写真が混ざっていました。
写真には老夫婦が横に並んで写っており、その周りを絵の具を垂らした様な肌色の滲みが綺麗に囲んでいたのです。
最初は絵の具か何かだと思いましたが、肌色のシミを触っても感触に変化はありませんでした。私はこの写真に不気味なものを覚え、アルバムを閉じて作業に戻りました。
暫くしてケーキを持った叔父が戻り、休憩する事になりました。休憩中、どうしてもあの写真が気になり、私はアルバムを持ってきて叔父に聞きました。
意外にも叔父はすんなり写真について話してくれました。「この写真はね、旅先で会ったタナベさんって夫婦何だけどね。二人はこの写真を撮る一年前に息子さんを亡くしててね、生前の息子との思い出の地を回ってたんだと」
叔父は続けます。「そんで写真撮ったらこれだよ。気味悪いから適当言って持って来ちゃった。」
叔父は笑いましたが、私は怖くて笑えませんでした。
「そんでね、これ続きがあってさ」叔父はそう言って立ち上がるとカウンターの下の棚から一枚の写真を持って来ました。
写真には先程の老夫婦とその横に私と同年代と思われる好青年そうな男性が写ってました。
「五年後くらいかな。たまたまタナベさん夫妻と再開してさ、今度こそって写真撮ったのよ」
叔父は青年に指を指します「こんな男はその場に居なかった」
私は全身の血の気が引くのを感じました。ですが、この青年が幽霊だとも思いませんでした。というのも、青年は老夫婦よりも薄いだとか顔色が悪いだとかそんな事はなく、ごく一般的な家族写真にしか見えないからです。
そんな私の心を読んだのか、叔父は続けます。「タナベさんにやんわりと死んだ息子さんの写真を見せてもらったらさ、全く同じ顔だった。奴さん死んで六年なのに生前よりも顔色が良くなってんのよ。仕事柄ね、こういうのは偶に撮れるよ、でもこれは群を抜いてキモいよ。何というかさ、数年かけてじっくり人の形を作って周りに溶け込んで、あわよくばもう一度誰かに人として認識されようって、明確な意思を感じるのさ」
叔父は不意にハッとして私に笑いかけます。「この写真も二人には見せなかったよ」
叔父は立ち上がり「飯を食べに行こう」と言いました。
私はふと、窓辺の写真が気になりそちらを見ました。すると、それに気づいた叔父は「あいつ綺麗に写ってるでしょ」と言いました。
私はこれ以上この話は考えない事にしています。
叔父さんが実は霊感カメラマンなのか、想いが強いとそうやってハッキリ出てしまうのか。でも自身の姿を忘れず大事な人のことも忘れず綺麗な姿で現れるのは悪くない気がするな。怖いは怖いけどw
私が生まれる前に叔母さんは亡くなってるはずなのに、スカイツリーと写っている叔父さんと綺麗な女性…
怖い話を書こうっていう明確な意思は感じる。
今後も頑張って下さい。
個人的にはタナベさんには写真あげたらいいのにと思った。
“仕事柄ね、こういうのは偶に撮れるよ”
結構小説ではこういうセリフよくあるので私も「心霊写真撮った事ある?」って何度か聞かれた事あるんだけど、30年人の写真撮ってて一度もおかしな写真撮った事はないな…
最後の切れ味なかなか良いですね
この話
一番好き。
この話し読んでたら、女の人の声が聞こえてきた。(本当)
綺麗に写ってる若くして亡くした妻をキモいとは思ってないよね、この人。変わりモンには違いないけど意外と一途でいい人なのかもね。