墓場で転んだ従兄弟の話
投稿者:次郎羅藻 (2)
偶然と言われればその通りかもしれませんが、私と従兄弟達は子供の頃に不思議な体験をしています。
あれは今から30年ほど前、私も従兄弟達も小学生だった時の話です。
当時怖い話にハマっていた私たちは、近所に住んでいたこともあり、事あるごとに集まっては怖い話をしたり、寺や墓場を探検したりしていました。
そんな私たちの中で最年少だったのが、当時小学校一年生だった太郎(仮名)です。太
郎は私たちの後にくっついてきては、人一倍怖がるために面白がられる存在となっていました。
そんな私と従兄弟達、太郎は例によって墓場へと探検に繰り出したわけですが、突然従兄弟の一人が「墓場で転ぶと死ぬらしい」と言い出したのです。
もちろん何の根拠も無い話ではあるのですが、しんと静まりかえった墓場で聞くと流石に怖くもなります。そして、それは太郎も同じでした。
「転びたくない」と怯えながら、一歩一歩を慎重に踏み出していたことを覚えています。
しかし、雨でぬかるんでいたためか、太郎が前のめりで転んでしまったのです。
普段転ぶような人間では無かったため、恐らくはその話を聞いて極度の緊張状態に陥ってしまったためでしょう。
太郎は両手を地面に突きながら、呆然とし、すぐさま「転んじゃった!死んじゃう!」と叫び出しました。
私たちはその様子が面白く「太郎、やべえじゃん。お前死んじゃうよ」とケラケラ笑ったのです。もちろん、その根底には「墓場で転んで死ぬわけがない」という考えがあったからですが。一方で、パニック状態になった太郎は、恐怖心で訳が分からなくなったのか、突然暴れ出して墓の上にあった供え物や花など色々なものを手で払いのけてしまったのです。流石にこの暴挙には恐怖心を抱き、太郎を抱えて墓場から出ることにしました。
そうしてその日は各々で帰宅していったのですが、帰宅早々に太郎の母親(叔母)から電話がありました。太郎の様子がおかしい、と。それについて説明をすると、叔母はそんなことならと笑って電話を切ってしまいました。ところが、です。夜中に再度叔母から電話があり、太郎が高熱で病院に救急搬送されたと伝えられました。その時点では単なる風邪だろうと私も思っていたのですが、日を追うごとに太郎の症状は悪化をしていき、一週間も過ぎると医者から「覚悟しておいてください」と言われるまでになってしまったのです。そうなると、あの墓場との因果関係を疑わないわけにもいきません。そこで従兄弟達と話をして、墓場へと向かうことにしたのです。
墓場の中には、太郎が荒らした墓もそのままの状態で残されていました。さすがに、払いのけられたものは処分されたのか見当たりませんでしたが。そして私たちは、墓を磨き、花を供え、墓前には自分たちで買える高価な駄菓子を供え、手を合わせながら「ごめんなさい。太郎を許してやってください」と祈ったのです。
それが正解かは分かりませんでしたが、当時の私たちはそうすることしか出来ませんでした。そしてそれが奏功したのか、医学の力によるものなのか、太郎の生命力が勝ったのか、翌日に叔母から「太郎が目を覚ました。危険な状態から脱することが出来た」と連絡があったのです。
現在は太郎も元気に働いていて、瀕死の状態になったことなど微塵も感じさせません。しかし不思議なことに、太郎はあの前後のことを一切覚えていないというのです。ショックで記憶が封印されてしまったのかは定かではありませんが、太郎にとっては無かったことになっているようです。しかし、墓場で転ぶと危険という記憶はあるらしく、お盆などの墓参りではいまだに慎重に歩いています。本人は理由がよく分からないと笑っていますが、こちらとしては笑えない状況になったのだと強く言ってやりたいですね。
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