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呪い・祟り

わかささんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

18の呪い
長編 2025/12/24 23:09 293view

ここから過去編に入ります。

――90年前ではない、
ほんの20数年前の話。
夜の田んぼは、今よりもずっと暗かった。
街灯は少なく、月明かりだけが道を照らす。
「マジで行くの?」
A男が、廃屋を見上げて言った。
「行くに決まってるでしょ」
柚奈の母——当時はまだ小学生で、
今より短い髪を揺らしながら、にやっと笑う。
「立ち入り禁止って書いてあるとさ、
 逆にワクワクしない?」
奈々の母が、小声で言う。
「でも……やめといたほうが……」
「大丈夫大丈夫!」
柚奈の母は、両手を広げて宣言した。
「ぶっ飛ばすぜベイベー!」
意味なんて、誰も考えていなかった。
ただ、
“怖いことをする自分”が楽しかった。
裏口の窓。
お札が、半分剥がれている。
「ほら、入れるじゃん」
柚奈の母が、無理やり押し開ける。
畳が、きしりと鳴った。
「うわ……」
A男が、明らかに怯えた声を出す。
「なにそれ〜?」
柚奈の母は、わざと足音を立てる。
「もう怖いの?」
「べ、別に……」
A男は、そう言いながら、
入口から一歩も進まない。
「じゃあさ」
柚奈の母は、
懐中電灯を下から顔に当てた。

「——ここ、
 夜中に子供の霊が出るって噂なんだけど」
「ちょ、やめろよ!」
A男が、後ずさる。
奈々の父が、慌てて言う。
「おい、さすがに——」
「いいじゃんいいじゃん!」
柚奈の母は笑う。
「肝試しなんだから!」
二階への階段。
闇が、濃くなっている。
「A男、先頭ね」
「えっ!?」
「だって、男でしょ?」
その言葉に、
A男は断れなかった。
階段を上るたび、
軋む音が、やけに大きく響く。
二階の部屋。
——お札だらけの部屋。
「……なに、これ……」
A男の声が、震えた。
「うわ、すご」
柚奈の母は、逆に興奮する。
「本格的じゃん!」
引き出しに、気づく。
「これ、開けたらヤバいやつじゃない?」
そう言って、
わざと一段目に触れる。
A男が、叫ぶ。
「やめろって!!」
「冗談冗談!」
——その時。
ろうそく台が、
かすかに鳴った。
青でも白でもない、

“何も灯っていない芯”が、
闇の中で、こちらを向いている。
一瞬だけ、
全員が黙った。
「……今の、風じゃない?」
奈々の母が、そう言った。
「気のせいでしょ」
柚奈の母は、肩をすくめる。
「ほら、A男」
「幽霊なんて——」
その時、
A男の足元で、畳が鳴った。
「——っ!!」
A男は、
声にならない悲鳴を上げ、
階段を転げ落ちるように逃げた。
「ちょ、待って!」
外に出ると、
A男は息を切らし、
泣きそうな顔で叫んだ。
「……もう、帰る!!」
柚奈の母は、少しだけ拍子抜けした顔をした。
「えー、ノリ悪いなぁ」
——その時は。
それが、
**“一番最初の不幸”**だったことを、
誰も知らなかった。
数日後から始まる、
小さな失敗。
18日後の、
18時過ぎ。
あの時の笑い声は、
もう、どこにも残っていない。
廃屋だけが、
何事もなかったように、
田んぼの真ん中に立ち続けていた。
——まるで、
選ばれるのを、待っていたかのように。

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