一時期、ストレス解消に夜中のランニングをするのにハマっていたことがある。
デカい人工河川沿いを4kmほど延々と走るんだけど、そこが結構人気スポットらしくて、深夜でも、ランニングしてたり犬の散歩してたり夜釣り(アホみたいにデカい鯉が釣れるらしい)をしてたり、と、チラホラ人を見かけるので安心だった。
ある日いつものように深夜0時頃に家を出発すると、やはりまばらに人がいるし街灯も点いてるしで、変わらない光景の中をマイペースに走ってたんだ。
いつもイヤホンで音楽を聴きながら走ってるから、その日もOASISを聴きながら快調に飛ばしてたんだけど、折り返し地点に差し掛かったとき、あれ?って思った。
iPodで聴いてる曲がちょいちょい音飛びする。
CDとかテープならわからんでもないけど、iPodで音飛び?…やべー…とうとうぶっ壊れたか?と思って、立ち止まってイヤホンジャックを挿し直したりしてたんだよ。
そしたら更に、あれ?ってなった。
なんとなく周りを見渡したら、人がいない。
街灯も切れてる物が多くて薄暗い。
音楽と走ることに夢中で、全然気が付かなかった…。
こういう時、多分本能的に耳をフリーにしようとするんだろうね。
私はイヤホンを耳から外して、周囲の音を聞こうとした。
この人工河川、近くに国道が通ってるから深夜でも車の走行音がうっすら聞こえるはずなんだけど、その時はほぼ無音。
急にすっごく怖くなってきた…。
怖くて身動きが取れずかたまっていると、前方の暗闇から白いジャージを着た人がこちらに向かってくるのが見えた。
あ、よかった!人がいた!と思って、ほっとしたのもつかの間。
なにか違和感を感じて、目を凝らして見る。
白いジャージを着た人は、どうやらかなり太った中年男性のようだった。
歩くような速度だけど、走っているかのように腕を大きく振り上げている。
そしてなんだか……ブレているようにも見える。
私は乱視がきついので、もしかしてそのせいかも…と、目を細めてピントを合わせる。
その間にもオジサンは徐々に距離を詰めてきていて、顔の表情が見える程度にまでなったとき、全てを理解した。
背中に冷水を浴びせられたような感覚になり、一瞬思考停止状態になる。
オジサンは、笑っていた。何がそんなに楽しいのか、声は聞こえないのに、ゲラゲラと肩を揺らして。
そして、ずれていた。
体の上半身と下半身が、思いっきり左右にずれていた。
私は思考停止のまま即座に踵を返し、オジサンとは逆方向に全力ダッシュをしていた。
逃げなきゃとか、どこに向かうとか、そんなことは一切考えられなくて、とにかく猛然と前に進んだ。
どのくらい走ったか、息が切れ始めた頃、コンビニを見つけて中に飛び込んだ。
明るい店内で、ゼーハーと息を整えていると、店員さんが驚いたのか心配したのか、声をかけてくれた。
私は、すみません大丈夫です…と息を切らせながら言い、深呼吸をして心を落ち着かせてから、ペットボトルの水を買って恐る恐る外の様子を伺う。

























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