ある田舎の住宅地
投稿者:dhgdf (3)
Aさんという男性の体験談です。
彼は人のすすめである田舎の一軒家に興味を持ち、休日に実物を見に行ったそうです。
そこは綺麗な自然の中に広がる数軒の住宅の一つで、たまには都会の喧騒から離れたいと考えていたAさんはそこをすぐに気に入って購入したそうです。
さっそく休日にその家に行き、静かな中で寛いでいる…と、ふと気がついたのです。
田舎とはいえ住宅の並んでいる場所なのに、流石に静かすぎる。
まるで周りに誰も居ない森の中のような静けさだったそうで、Aさんは別の日にその家を管理していた管理人の方に聞いてみたそうです。
すると管理人は「あの住宅地はAさんの他には誰も住んでいませんよ。全て空き家です」と言われ、よくよく観察すると確かに隣家には人の気配がしないのです。
見に行った時には全く感じなかった寂れた雰囲気が漂っていて、Aさんは少し気になって管理人から色々と話を聞いてみたそうです。
なんでもこの住宅地についての公然の秘密で、どうやらここにあった「なにか」を建設会社が見ぬふりをして潰して作ったのがこの住宅地だそうで、何があったかは分からないそうですがかなりの規模の「なにか」があったそうです。
「私もただの雇われだから事情はよく知らない」とのことで、ただAさんは疑問が解消したのでひとまず納得したそうです。
またある時、彼はこの田舎の家の近所をドライブしていたところ、なんとも厳かな雰囲気のある神社を見かけたそうです。
ひとつお参りでもしてみようと駐車場に車を停めた時、突然「入るな!」と怒鳴られたそうです。
見ると杖をついたお爺さんがやってきて、「あんたは和を乱すから入るな」とか「ここは和が保たれている場所だからあんたみたいのは来たらいけない」とかそんなことを言われ、そのうちそのお爺さんは神社の中に入っていってしまったそうです。
結局Aさんは釈然としないまま神社を後にし、田舎の家に戻ってきたそうです。
車を降りてなんとなく前輪のタイヤを見ると、するめのようにぺしゃんこになったトカゲかヤモリの死体がゴムにへばりついており、血が滴っていたそうです。
それからしばらくして、Aさんは海外への転勤の話が上がり、それに乗ることにしたそうで、それを機に身辺の整理をすることにしたそうです。
田舎の家も手放すことにしたそうで、彼はさっさと家を掃除し僅かな荷物を車一台に積んで出発したそうです。
見慣れた景色を見ながら、ふと違和感があったそうです。
周りの空き家には終ぞ誰も住むことはなかったそうですが、「こんなに汚かったか」と思ったそうです。
どの家も塀や壁が黒ずんでいて、立っている標識にもその黒ずみが浸食しているのだそうです。
初めに見たときの楽園のように美しく見えた住宅地とは似ても似つかないゴーストタウンのような雰囲気があって、よくこんな怖い場所に通っていたなと自分でも不思議に思ったそうです。
そこは細い一本道を坂を上って街へ出るのだそうで、Aさんがアクセルを踏んでいると、前から車が一台やってきたそうです。
彼は切り返し用の窪みに自分の車を入れて道を譲ってあげると、対向車の男性は窓を開けて「ありがとうね!」と上機嫌に礼を言って進んでいったそうです。
そこでなんとなくAさんは車を降り、坂の上から住宅地を見てみたそうです。
そこにあったのは初めて見た時と同じ、美しい自然の中に広がる綺麗な住宅地の景色だったそうです。
驚いて車に戻りミラーを見ると、映っているのは閑散として薄暗い先ほどまでのゴーストタウン。
同じ景色のはずなのにまったく違う雰囲気で、そこで初めて彼は「ここは何かがおかしい」と悟ったそうです。
それからAさんは海外に引っ越し、色々あってまた日本に戻ってきて、昔話としてこの話を聞かせてくれたのです。
最後に彼は「もしかしたらあの時坂ですれ違った対向車の彼には、『美しい方』の住宅地が見えていたのかもね」と言っていました。
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