名物おばちゃん
投稿者:パン (1)
私が小学生の頃、近所に名物おばちゃんがいた。
小学校までの通学路に並ぶ住宅街の中の一軒家の前に
毎朝立って通学中の子供たちに手を振っては
「いってらっしゃーい、今日も頑張ってねー」と優しく声をかけていた。
なんてことはない、ただの子供好きのおばちゃんだ。
ニコニコと笑顔で声を掛けるおばちゃんは子供たちからも親しまれていた。
ハイタッチをしたりジャンケンをしたりと近所では面倒見のいいおばちゃんとして
知られていた。
後から知ったのだが、ご主人を早くに亡くし長いことその家で一人で暮らしており
朝の通学中の子供たちを見送るのが唯一の楽しみだったそうだ。
そんなある時、一緒に学校から帰っていた同級生が
「おばちゃんの家に遊びに行かない?」と提案してきた。
特に何も考えずに私は「行こう行こう」と言っておばちゃんの家を訪ねた。
急な訪問にもかかわらずおばちゃんは快く迎え入れてくれてお土産に飴玉をくれた。
どうやら同じように学校の帰りにおばちゃんの家に立ち寄る子供がたくさんいたようで
いつでもお土産を渡せるようにと飴玉を玄関先に用意してくれていたようだ。
そんな話が学校中に知れ渡り、さすがに学校側はこれを問題視して
おばちゃんに対してお菓子を与えないで欲しいと忠告されてしまったのだ。
それ以来、朝の通学路にも姿を見せる回数が減り、そのうちに表に立つことはなくなってしまった。
それから数年経ち中学生になった私はその道を通ることもなくなった。
ある日、授業で使う英語の教科書を忘れて隣のクラスの友達に借りてそのまま持ち帰ってしまったことがあった。すぐに返さないといけないと思い夕暮れ時に自転車で友達の家まで返しに行くことに。友達の家はあの名物おばちゃんの近所だった。
おばちゃん元気にしてるのかな、なんて思いながらおばちゃんの家の前を通り過ぎようとしたところ、なんとおばちゃんが手を振って立っていたのだ。あまりにびっくりして変な声を上げてしまった。
おばちゃんの顔には表情は無くぼそぼそと何かつぶやいており、その姿の異様さに恐怖を感じる一方であのおばちゃんがついにボケてしまって徘徊しだしたのか・・と考えると切なくもなった。
すぐに友達の家に教科書を返し終えて、帰り際に聞いてみた。
「なあ、あのおばちゃんって、いつも徘徊してるの?」
すると友達は顔色を変え信じられないことを口にした。
「え・・お前何言ってんの?あそこのおばちゃん、ずいぶん前に亡くなってるぞ。気持ち悪いこと言うなよ」「・・・・」
その時は状況を呑み込めずパニックになり泣きながら遠回りをして家に帰った。あれは見間違いだろうと何度も自分に言い聞かせていた。
だけど、今にして思えば、あの時もずっとおばちゃんは私たちを見守ってくれてたんだ・・と思うと泣けてきた。
子ども達に忠告するべきでしたね。