吹雪の中、森の中から呼ぶ声
投稿者:田端 (1)
私は施設の職員をしています。目を離した隙にあるお年寄りが施設の外に出てしまいました。
施設の外は雪がしんしんと降っています。急いで探しましたがやがて夕暮れがせまり
あたり一面が銀世界に包まれます。施設の職員一同○○さーんと大声で呼びかけますが
一向に返事は帰ってきません。雪はしだいに風を伴いながら猛吹雪になります。
1人また1人、捜索しているスタッフは疲労と寒さから、施設に戻ってきます。
「だめだ見つからない」
施設周辺の地図を見渡しては、絶望の予感がよぎります。
それでも必死に寒さの中スタッフは外に出て捜索に向かいます。
何か手がかりは無いかと、道路から見える林や森を探索します。
外に出ていったお年寄りは、施設に来る前は険しい顔つきばかりしていました。
なぜなら精神を落ち着かせる薬を大量に内服しており
明らかに薬の影響で険しい顔つきでしたが、施設職員のあたたかい関わりで
徐々に表情が和らぎ薬の量が減っていき元気を取り戻して行きました。
そんな元気を取り戻した矢先に居なくなってしまい
職員は涙を浮かべながら家族のように捜索を行いました。
吹雪の中何か違和感を感じました。真っ暗な森の中から人の声が聞こえるのです
はじめは疑いましたが森の中に入っていく度に声が大きくなります。
信じられないくらい深い森を進みます。声が聞こえなければこれ以上は進みません。
「こっちだよ」確かに聞こえたその時
丸太に横たわる一人のお年寄りが居ました。
「大丈夫ですか」声をかけるも穏やかな表情を浮かべ眠っているようです。
必死になり、着ていたダウンジャケットをお年寄りにかけ、必死に手をさすります。
しかしお年寄りはピクリとも動きませんでした。
やがて救急車が到着し搬送先の病院で死亡が確認されました。
私達は大泣きをしました。あんなに優しかった人が帰らぬ人になったからです。
振り返ると間違っても吹雪の中、あの森の中に入ることは無かったはずですが
お年寄りが呼んでいたのかもしれません。
私達はお線香に火を灯しご冥福をお祈りしました。
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