ドレスを着るトイレ

特に怖い話でもないかもしれませんが、私が聞いた話をひとつ。

私の住んでいる市内のある中学校には、いつ行っても空いていない女子トイレがあります。
古い、B棟の二階。
B棟は、音楽室や理科室などの教室がある棟で、あまり使われていません。
ですが、三年間、いつ行っても空いていない。

その中学校に通っていた私の友達は、それが気になって気になって、部活の先輩に聞いてみたそうです。
すると、先輩は気まずそうに答えました。
「あー…あそこねぇ…。うちもあんまり知らないんだけど…。」

先輩が言うに、あそこの個室は「ドレスを着るトイレ」と言われていて、もう何年も空いていない。
なんでも、トイレのドアの荷物などをかけるところに、ドレスがかかっているそうです。ドレスといっても、白いワンピースにたくさんフリルがついているようなものですが。
「数年ごとに、ドレスかえてるんだって。」

そう半笑いで言う先輩に、なんでそんなことをしているのかと尋ねると、
「それがねぇ…わかんないのよ。」
と返ってきました。
あっけにとられる友達をよそに、先輩は、
「ドレスの噂はずっと続いてるけど、なんでドレスを着させてるかも、なにも伝わってないの。ていうか、ほんとにドレス着てるかもわかんないんだけどね。」
と言って友達を一瞥したあと、戻っていきました。

友達は、あの個室の謎が解けたと思ったら、またもう一つの謎が出てきたな、と思ったそうですが、それよりも猛烈に「その個室に入りたい」と思いました。

ここまで聞いて私は、あ、入ったんだと悟りました。彼女の、ドレスの説明がとても詳細だったからです。
とりあえず、私は友達の話に耳を傾けました。

先輩が言うに、別に個室に入っても祟られるようなことは無さそうだし、なによりもあの個室に入ってみたいと強く思ったので、その日の放課後にさっそく入ってみることにしました。

夕焼けが校舎を照らす中、薄暗いB棟の二階の女子トイレに友達は向かいます。

彼女に恐怖心なんてありません。
ただ、一心にあの個室に入りたかった。

あの個室の前に来ました。
トイレの鍵は、赤を示していて、そこに誰かがいることを暗示しています。
もちろん、そのままでは開きません。
ですが、友達は力任せにドアを開けたそうです。

そこで、友達は話を切りました。
私は、思わず、
「中は、どうだったの？」
と聞きました。
すると、友達は
「え？ああ、優しかったよ。」
と言って笑いました。