顔が見えないストーカー
投稿者:かいりんぬ (2)
この話には、4人の「人間」が登場します。
私(K君)、彼女、A、親友の4人です。
Aのことを代名詞で「彼女」と呼ぶことはないので、紛らわしいですが気を付けてください。
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これは私が大学一年生の時の話だ。
当時付き合っていた彼女がいた。私はバイト帰りに、帰路を歩きながらよく彼女とLINE電話をしていた。
彼女は私が高校生の時から付き合っている彼女であり、彼女は地元の大学、私は他県の大学へと進学してしまっていたので、必然的に遠距離恋愛状態であった。それに追い打ちをかけるように、大学生になると、茶話会やゼミなどで、男女問わず新しい出会いがある。毎晩、誰かの家での飲み会に夜遅くまで参加するというのは、そこそこ遊びが盛んな私には入学間もない4月から頻繁にあることであった。
もちろん、彼女は彼女で新しい出会いが多くあり、自然とお互いに連絡を取り合う頻度が少なくなっていた。
そこで、私と彼女は「バイト終わりやゼミ終わり、なるべく頻繁に電話をする」という策をとることで、お互いに嫌いでもないのに訪れた倦怠期を解決しようとしていた。
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ところで、これは大学生活のあるあるかもしれないが、やはり新しい環境には新しい出会いがあり、その中には男女仲のものもあった。率直に言うと、サークルで仲が良くなった女の子に好意を抱かれていた。私はこれを、毎晩の彼女とのLINE電話で話してみると、「私も先輩に言い寄られてるんよね~」といった感じにあるある話になって、まぁ別れたとしたら成り行きだし、といってもお互いに好きが回復してきたので全然別れる気はないしといった状況は続いていた。
仮に、私に好意を抱いていた女の子をAとして話を進める。
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もう6月に入るころの話である。あるバイト帰りの夜、雨の日だったため、珍しく電車で帰っていた。もちろん電車では電話をすることができないため、駅に着いたら電話するよ、とだけ伝えてのんびり電車に乗っていた。
自分が降りる駅から二駅ほど前の駅に到着したとき、突然、隣に座ってきた人に左腕をつかまれたので、イヤホンを付けてYoutubeを見ていた私は驚いてしまった。隣に座ってきたのは、Aであった。
Aは、正直言ってタイプではない。容姿は普通といった感じではあるが、タイプではない。恋愛観点で行くと全く無いなと私は思っていた。しかし、Aはとても明るく溌溂とした女の子で、飲み会などで話したり、講義などで一緒にいる分には、すなわち友達としてはすごく好きだった。そういう性格もあったせいか、電車で私が一人の空間に入っていても、お構いなしに絡んできたのであった。
「アパート近いから一緒帰ろうよ♪」
うわどうしよー、彼女と電話したいのにな…と素直に思った。まぁでも彼女とはいつも電話しているし、サークルで同じバンドを組んでいるA(遅れたが、私は軽音楽サークルに入っていた)をおろそかに扱うのは何となくいやだなと思い、「いいよー」と生返事をするのであった。
とりあえず早く帰って、お風呂にでも浸かりながら電話しようと考えていた私は、Aとは楽しく話しながらも、少し速足だったかもしれない。可哀そうに、Aは躓いてしまい、独りで帰すのはしんどいかな、と思い肩をかして家まで送ってやることにした。
私とAは別のアパートに住んでいたが、大通りからアパート街に入る枝道は一緒だった。その枝道に入るところに、一つ公園がある。私が肩を貸しているとはいっても、一応自分の足でも歩いているAは、さすがに痛むのか疲れたのか、「〇公園でちょっと休憩しよ♪」と言ってきた。まぁしゃあないのでベンチで休憩することになった。
この日はちょっとAの様子は変であった。電車の中で隣にくっついて楽しそうにしているのは、まぁいつも通りだなーとは思っていたが、ちょっと甘え具合がいつもより強かったように思えた。「あの言葉」を言われたくないなぁ・・・でもちょっと雰囲気あるな・・・と思っていた。
公園でしばらく足のことを心配した後、「ごめん、俺予定あってー」と言ってもう行こうよと促したとき、おもむろにAは私に抱き着いて頬をくっつけた。
「すき。付き合ってほしい。」
いわれてしもうた。「あの言葉」だ。
もちろん私は彼女のことが好きである。先ほども説明したように、バンドメンバーでもあるAの告白を受け頭がいっぱいいっぱいになっていたところで、私のスマホが鳴った。「たたたたたたたん♬」LINE電話の音である。
電話は出らずともわかっていたが、遠距離恋愛中の彼女である。突然の電話に冷静になった私とAは、とりあえずハグ解消し、私は電話に出た。電車降りたら電話するって言ってたのに、あまりにも遅いので、心配してかけてきたのであろう。
電話が終わった後、Aはうつろな目で、「彼女いたんだね、ごめんね…」といった具合で、いつもの明るく溌溂な感じの対極のように悲しげな表情を浮かべていた。そういえば、Aとは出会って2ヶ月と間もないし、バンドの話や講義の話といった、大学生ならではみたいな会話しかしてなかったので、私に彼女がいることを知らなかった。何なら、大学入ってすぐ意気投合した親友である男子一人を除いて、誰も知らなかったと思う。
ずっと半泣きで、足も痛そうにしているAがとても可哀そうで、とりあえず優しく家まで送ってあげた。
次の日からも、Aはいつも通り楽しそうにしていて、昨日のことがなかったように私にも話しかけてきていた。
今までは、Aと昼休みに二人で学食に行ったり、講義で隣同士に座っていると、「彼女がいるのに、なんかワンちゃんあると思わせたらどうしよう」と罪悪感があった。案の定、好意を持ってしまったので。今回、彼女がいると認識してもらったことで、なんだかその罪悪感がなくなったような気がして、今までよりも壁がなく気軽に接することができた。
読んでいる途中から生霊だと思っていましたが違うパターンで怖かったです。
早目に彼女がいる事を伝えるべきでしたね。
最後えぐぅ
ガチ面白かったです
実は本物のAがお風呂に死体となって後日発見されたって展開だったら怖かったのになぁ。
2023/06/02/16:51様
ありがとうございます。
まぁでも本当に恋愛感情なくても距離が近い女の子ってよくいるじゃないですか。「俺彼女いるよ」とかわざわざ伝えたら逆に恥ずかしい思いとか気まずくなる可能性あるので…
かいりんぬ
2023/06/12/15:06様
長尺作品ですが楽しんでいただけて私も満足です。
かいりんぬ
2023/06/15/13:48様
このお話って8割実体験で2割脚色なんですけど、話の大事な部分を書くために、2割の脚色でAを殺すことはできなかったです。精進します。
かいりんぬ