夜道での長電話には、ご用心

これは、もうかれこれ20年ほど前の話。
当時サービス業に従事していた私は、仕事帰りの夜9時ごろに最寄り駅に到着。
自宅への道すがら、友だちと携帯電話で話しながら歩いていました。

しばらく歩いて、話もちょうど盛り上がってピークの時、携帯の充電がなくなって、通話が途切れてしまったんです。
そこで、そのまま家に帰ればよかったんですが、どうしても続きを話したかった私は、たまたま持っていたテレフォンカードで、そこから一番近くの公衆電話から電話を掛けなおして、楽しく話していました。

会話が一段落した頃、帰ろうかと受話器を置いて振り返ると、ジャージ姿で自転車に跨ったおっさんが、すぐ後ろにいることに気づきました。
一体いつからいたのかわかりませんが、電話を待っていたのなら、申し訳ないことをしたと思い、「すみません」と声をかけて立ち去りました。
が、その人は電話には目もくれず、そのまま私の後ろを適度な距離を保ちながら、ついてくるのです。

それでも私は『たまたま帰り道が同じなだけかも』と思い、そのおっさんをやり過ごすために、近くのコンビニに入り、10分ほどで、そのまま店外へ。
すると、店内からは見えない、向かいの道路で自転車に跨ったままの見覚えのあるおっさんが、こちらを見ているではありませんか。

『このまま家に帰って、場所を知られるのは怖い』
そう思った私は、ダッシュでそこから一番近い交番へ逃げ込みました。
ちょうど1人、中におまわりさんがいたので、おっさんに後をつけられてることを話し、助けを乞いましたが、直接的な被害に遭ってないなら何もできないとのこと。

仕方なく交番を出ようとするも、又も向かいの道路からじっとこちらを見てるのが見えたので、
「おまわりさん、あの人です」と、再度訴えましたが、
「他所からの通報で、これからすぐに出動しなくてはならない。用紙に住所と名前、電話番号を書いてくれたら、あとでその付近をパトロールするから、帰って」
と言われ、途方に暮れながら家路につきます。
この時点ですでに夜の11時前でした。

ここで、交番にまで行ったのに警察が介入してないことがわかって安心したのか、そこからのおっさんは、何か叫びながら、私の後ろをついて来始めました。
距離を保ったままでしたが、明らかに私に向かって叫んでいます。

酔っぱらっているようには見えませんでしたが、何を叫んでいるのかは聞き取れませんでした。

ただ、いずれにせよ、このまま家には帰れないので、家族に迎えに来てもらおうと考えました。
それで、公衆電話から電話することにしたんですが、あいにくその電話ボックスは公園の中。住宅街の夜の公園ほど、人気がなく、危険な場所であることを、当時の私は知りませんでした。

ボックスに駆け込み、自宅へ電話を掛けます。が、家族は寝てしまっているのか、なかなか出てくれません。
何十回かのコールでようやく、家族が出てくれた、その時。おっさんが電話ボックスの外から入ってこようとしました。

家族に助けを求めながらも、必死でドアが開かないように抵抗する私。
何とか家族に迎えに来て欲しいと伝えたところで一旦電話を切り、今度は緊急用の赤いボタンを押して、警察に再度助けを求めます。
すると、その様子を見ていたおっさんは、何と、ジャージのズボンを膝までずり下げて、ボックスのガラス面に体を押し付けてきました。そして、薄気味の悪い笑顔をこちらに向けたのです。
その一瞬で悪寒が走りました。

その間、何分間だったのでしょうか、私は動くこともできず、ただ電話の向こうの警察官に、この現状を伝えましたが、またも電話の人は
「警官が行くまで、そのままそこで待機していてください」
と、恐ろしい指示を出すのです。電話を切ったころ、ようやく家族が駆けつけてきてくれて、それを察知したおっさんは、奇声を発しながら自転車で走り去りました。