宙に浮く男
投稿者:74 (1)
高一の冬に体験した出来事。
当時はノストラダムスの大予言が騒ぎになり、高校生はポケベルやPHSを使っていた時代。
おれはとある工業高校でマイナー競技のボート部に所属していた。
マイナー競技だけあっていきなり県大会決勝とかがザラで、野球部が県大会に出るくらい頑張ればインターハイに手が届くような感じだった。
うちの学校は古豪と言われるようなポジションで、過去には全国大会で入賞経験もあった。
しかし当時の三年生が喫煙騒ぎで停学になった事が原因で、夏の大会を辞退したりとかなり悪い状況になっていた。
その三年生が引退した冬、おれは不思議な体験をした。
ボート部は冬になると艇を漕がないで筋トレ部といった状況になる。
暖かくなるまでは走るか校内でマシンを漕ぐ。
あとはひたすら筋トレというつまらない日々が続く。(これで退部する奴もいた。)
だが素行の悪い三年生が抜けて真面目な二年生が中心になり、部は立ち直りかけていたと思う。
そんなある日の夕方、昼と夜の間の様な時間帯。
部活が終わりおれは同期と2人でグラウンドにある部室を最後に出た。
この日は校外の登山道へ走りに行ったこともあり、いつも遅い野球部も上がっていてボート部が最後だった。
明日は筋肉痛になることが分かるくらい足が重い。
そして帰る前に同期と連れションに行くことになった。
部室のあるグラウンドは校舎より一階分低い位置にあり、トイレに行くには階段を登らなくてはならない。
腹減ったな、なんて思いながら何気なく階段の方に目を向けると「それ」は見えた。
出来の悪い二重写しの写真の様だった。
階段に付近に作業服を着た男が宙に浮いていたのだ。
男の足は階段の手すりの位置にあり、絶対に人が立てる場所じゃない。
おれの位置から階段はだいたい30メートルほど離れていて、薄暗いこともあり男の表情は見えなかった。
男はこちらを向いていたが目があった気はしなかった。
時間にして数秒だったと思う。
おれは思わず隣を歩く同期に視線を移した。
同期は前を向いているが作業服の男が見えている様子はない。
この時、同期とは他愛もない馬鹿話をしていた。
おれは確かめる気持ちでもう一度同じ場所を見ると、男は消えていた。
この手の話によくある寒気を感じたり鳥肌が立つなどといったことは起きなかった。
霊感と言えるものが一切無いおれにはこれが心霊現象という意識すらなかった。
ただ「変なものを見た」という感想だった。
しかし不思議と見間違いとは思わなかった事を覚えている。
同期に話しても馬鹿にされそうだと思い、おれはこの事について何も話さずトイレを済ませて家に帰った。
なんだか温かみがある話ですね
今もボート部を応援しているのでしょうか