思い出の2階の女の子
投稿者:okamashi (2)
小さい頃、といっても私の人生で一番古い記憶の話だ。
私は両親と4歳年の離れた姉と、2階建ての一軒家に住んでいた。
当時、2階は父の寝室と物置代わりの空き部屋だった。
階段を上がってすぐの場所には少し大きめのクマのぬいぐるみが子供用のイスに座っていた。
まだひとりで階段を登ることができなかったし、父以外2階には用がないので行ったことがなかった。
階段を降りたすぐ右にはトイレがあった。
毎晩、寝る前に母に連れられトイレに行ってから母と姉と私で寝るのが当時のルーティン。
ある日、夜のルーティンの前に階段を見上げると見知らぬ少し年上の女の子がクマのぬいぐるみをなでている。
私は幼児だったのでそれを何の疑問ももたずに受け入れた。
手を振ると女の子もにこっと笑って振り返してくれた。
その日以降、毎日それが続いた。
その女の子がそこにいることに全く疑問ももたないまま毎日寝る前、トイレに行くたびに手を振っていた。
それがその時は至極当然のことと思っていた。
もう少し成長していて、会話することができていれば母に女の子の存在を伝えていただろう。
初めて女の子に会ってから数回寝る前のバイバイを交わした。
ある時、母が俺が階段の上に手を振る私に「最近、あの子のことがお気に入りなんやね」と聞かれた記憶はある。
なんと答えたかは覚えていないが、たぶん「うん」だろう。
全然恐怖感とか何もなく、本当に本当にそこにいるのが当然だと思っていたので。
その女の子と何時どういう感じで会えなくなったのかも全く記憶にない。
そして完全に忘れかけていっていた。
私も小学生になり、ある日母と思い出話をしていた。
「あんたはあのクマのぬいぐるみが大好きで、夜トイレに行く前にバイバイってよくしてたんよ」と母が言った。
私の中であの女の子の記憶が一気に蘇った。
「え?あれは2階にいた女の子にバイバイしてたんよ。あの小さい時2階にいた女の子…」
そう答えた時の母の驚きと喜びと悲しさが混じった表情は今でも忘れない。
その後、母は涙ながらに話してくれた。
姉と私の間に産まれてこれなかったもうひとりの姉がいたことを。
そして産まれてこれなかった子を想ってクマのぬいぐるみを置いていたことを。
今思い返せば、あの女の子を母にも見せてあげたかったな。
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