夕暮れ時の畑を歩く謎の生物の正体は、ため池の主？？

　かなりむかしの話です。わたしの実家は田舎にあり、ポツンと一軒家のように隣の家と離れていました。

　農家ではありませんが庭が広いので、祖母と母が作った畑があります。

　そして敷地の前と後ろに、大きなため池がありました。

　ため池から田んぼに水を流す村のお年寄りたちは「ため池には主（ぬし）がいるんじゃよ」と話してくれました。

　あれは、幼稚園に上がる前の年の夏のことです。

　お昼寝をして目覚めた夕暮れ、寝ぼけた目をこすって、何気なく私は外に出ました。

　すると、夕闇の畑にくっきりと、白い大きな物体が動いているのが見えます。

　それは信じられないことに、大人が一人またがって乗れるほどの大きな亀でした。

　甲羅は丸く、重たい体を揺らせてのっしのっしと畑を横切って裏の池の方へ歩いてゆきます。

　辺りは薄暗くなっているというのに、その白い大きな亀の姿だけは、くっきりと私の目に映るのでした。

　その後のことはよく覚えていませんが、家の中に飛んで入って、祖母にそのことを話したのだと思います。

　祖母がいうのには「その亀はきっと、ため池の主じゃよ。裏の池で神様の集まりがあるから、歩いて行ったんじゃ」

　大人になった今は主の姿を見ることはありません。