少し道を踏み外しただけで
投稿者:奏者 (1)
人間とは怖い生き物だ。
昔々、ある日何年も連絡のなかった友人から突然電話がかかって来た。しかも連絡があったのは携帯ではく実家の固定電話である。
それだけでも首をかしげたのであるが、電話の内容もどうやら自分には悩みがある、そしてそれを聞いて欲しいという事を何となく遠回しに言っているのだ。
よくよく話を聞けば、自分は中国人と浮気をしている。そしてその中国人と一緒になりたいが、どうすればいいかという話しなのだ。
私は近々その友人の住む街に出張の機会があったので、その時にゆっくり話を聞こうという事になった。
翌日、何と彼の妻から連絡があり、昨日主人は何を話していたのか、どうやら浮気をしているようなので探偵に頼んで調査してもらっている。もし浮気が事実なら離婚も考えている。ただ、その事はもちろん今日自分から連絡があったこと自体も絶対に秘密にして欲しい。という事なのだ。
その後も二人から何度か電話で相談を受けながら出張の日を迎えた。
友人と久しぶりに酒を飲みながら、しばらく昔話に花を咲かせたが、話が本題に入ると事態は思ったより深刻だった。
彼は現在失業中でうつ病を患い、その原因は妻にある。浮気相手の中国人とは10年以上の付き合いで今の自分の唯一の支えとなっている。というのである。
私は奥さんから彼の怖いDVの話も聞いているで、彼の話を鵜呑みにすることはできず、実際にやっている事は人間として最低の行為なので、本来であれば彼の行いを正すべきだったのであろうが、そこは昔なじみの相棒という事もあり、その宴はただ相槌を打つだけで終わってしまった。
その後、奥さんからも連絡があったが、私はどちらの味方をしていいかわからず、悪いと思いつつもご主人からは浮気の事は何も聞いていないという事でその話は終わらせてしまった。
それから程なくして友人は自殺、浮気相手の中国人は行方知れず、奥さんは体を壊し故郷に戻ったようだ。
何が本当で何が最善の策だったのかはわからないが、人間は少し道を踏み外しただけで、そこには最悪の結末が待っているのかもしれない。
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