奇々怪々 お知らせ

不思議体験

ミリさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

死を悟った気性の激しいおばあさん
短編 2021/08/07 22:46 1,239view

八年前くらいの話です。
新卒で特養型の老人ホームで働いていました。そこは新しくできた施設で1フロア20人を二人か三人で見ていました。各利用者さんは個室があり、何かあっては困るので見守りのために個室の扉は基本的には開けたままで対応させていただいていました。

その中の新規入居者様で、Sさんという方がいらっしゃいました。Sさんはとても気難しい方で、ご家族様が言うには「旦那さんが早くに亡くなってからは女手ひとつで子育てをしてきた人だから、責任感が強く、何でも自分でやろうとしてしまう性格」なんだそうです。
しかし子育てが終わり、孫も大きくなってからはやることもなくなったせいか認知症が発症、日に日に物忘れが激しくなったのですが、ご本人様の性格もあって「他人の世話になんかなるもんか!」といってお子さんからの介護を尽く断ったのだそう。その末に困ったご家族様が当施設への入居申し込みをされたのだそうです。当施設はマンションで、我々は施設の管理人という設定でSさんと関わることになりました。

話に聞いていた通り、Sさんはとても気性の激しい方でした。当施設には寝たきりの方、認知症の方、比較的しっかりしている方など様々な症状の方が入居されていたのですが、Sさんは「(寝たきりの方に)一日中寝たきりでどうする!」「(夜に「もう朝ですか?」と言っている入居者さんに対して)ぼけているのか!」と大声をあげることも多く、その指摘は職員にまで及びました。「誰の手助けもいらない!」と拒否されることは日常茶飯事です。私も毎日のように怒られていました。

そんなある日、いつものようにSさんに「こんにちは」とご挨拶をすると、突然Sさんがぶわっと子どものように泣き始めました。「おねえちゃん、いつも大変ね、ありがとう」と私の手を握りしめて言っています。今までずっと「あら、はじめての職員さんね」としか言われたことがなかったので驚きつつも、非常に嬉しかったのを覚えています。

そしてその日、他の利用者さんのトイレ介助をしてからふとフロアを見渡すと、Sさんの部屋の扉が閉まっているのが見えました。癇癪を起こしたSさんが自らの居室に閉じこもるのは実は珍しくないのですが、泣きながら感謝していたSさんの姿に違和感を覚えた私は急いでマスターキーを持って居室の扉を開けました。

居室の扉を開けてすぐのところにあるお気に入りの椅子の上にちょこんと座ったSさんは、眠るように死んでいました。すぐに看護師さんと施設長を呼びましたが時すでに遅し。突然死であったため現場検証に警察も来ましたが、特に持病のなかったSさんの突然死に職員も、他の入居者さんも驚き、動揺を隠せませんでした。あの時、子どものように泣きじゃくって感謝を述べてくれたSさんの顔は未だに忘れることができません。自分の死期を悟ったのか、今はもう確認することはできませんが、数年経った今でも忘れることのできない不思議な体験です。

1/1
コメント(0)

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。