山道であった不思議なこと
投稿者:TTM (1)
今から30年以上昔のこと。
当時小学生だった私は父親と一緒に隣町へ農機具の買い出しに出かけました。
隣町までは車で2時間ほどかかり、かつ軽トラックでの移動だったため1日がかりのイベントでとても疲れていました。
結局用事は夕方遅くまでかかり、帰る頃には辺りはすっかり真っ暗になっていました。
今から出れば家に着くのは9時前か・・・車の中で寝ておこうか、と暗い気分で考えていたのを覚えています。
無口な父親は特に何も言わず、車を走らせ始めたので隣で目を閉じ、やがて眠りに落ちました。
次に目を覚ましたのは何もない山奥でした。父親が隣で何やら叫んでいます。
「うさぎじゃ!うさぎがおる!降りて行ってこい!」
見るとヘッドライトで照らされた先に野うさぎが1匹座っていました。
当時、私の田舎ではウサギは食べることもできるし、毛皮を売ることもできる獲物でした。
どうやら父親は私に車から降りて、うさぎを捕まえてこい、と言っているようでした。
寝起きの寝ぼけまなこのまま私は車を降り、うさぎを追いかけ始めました。
追いかけると、ウサギは逃げ出し、5メートルほど離れてまた座り込みました。
普通だと捕まえるのは難しいと思うのですが、そのうさぎは妙に捕まえられそうな気がしました。
しばらく追いかけては逃げられを繰り返すうち、父親は業を煮やしたのか、車で私を追い抜いてうさぎを追いだしました。
追い抜かれて急に不安になった私はあわてて全速力で駆け出しました。
すると、途中で片方の靴が脱げ、転んでしまいました。
泣きそうになって起き上がりましたが既に父親の車は見えません。
街灯も月の明かりもない真っ暗な夜道です。はいつくばって靴を探しましたが見つけることが出来ませんでした。
ひんやりしたアスファルトの道にしばらくしゃがんでいましたが、急に心細くなり、
「父ちゃん!父ちゃん!」
と叫んでみましたが父親が帰ってくる気配はありません。
しばらくして暗闇に目が慣れてきたので少しずつ歩き出しました。相変わらず静かで、草木が風で揺れる音しか聞こえません。
私はこのまま遭難して死んでしまうかもしれないと思い、大声で泣きながら、
「オーイ!オーイ!」
と声を出し続けました。
不思議なのは暗闇に放り出されてしばらく経つのに、父親が帰ってくる気配が全くないことでした。
こんなに経つのに帰ってこないとは、自分は捨てられたのかもしれない。
そう思った私はさらに大声で泣きだしました。そして真っ暗な夜道を片方の靴を履いたままで駆け出しました。
下り坂の山道でしたが、どこをどう走っていたのかとにかく夢中で飛んでいるような心持でした。
一瞬別の世界に迷い込んだのでしょうか