初恋のおもいで
投稿者:zozowawa (3)
これは私が、小学生だった頃のはなし。
当時、両親が共働きで兄弟もいなかった私は、学校で完全下校の16時半ごろまで友人と遊び、その後は家に帰ることなく帰り道の公園に寄って、1人ぼっちで遊ぶような日々を送っていた。私にとってはこれが当たり前だったので、寂しさなどは特に感じたことがなかった。
高学年になったある日、公園で、その日たまたま一緒に遊んだ友達に別れを告げて、帰宅するには早いと一人で遊具遊びをしていたとき、見慣れない女の子がやってきた。その子は恐らく自分と歳が同じくらいで、とても可愛らしく、私はその子を前にして心臓がドキドキとしたことを覚えている。女の子は私が漕いでいたブランコの隣に座り、私と同じようにブランコを漕ぎ始めたが、声をかける勇気は無く、その日はその女の子をただ眺めるだけで終わった。
しかし、次の日もまたその次の日も、女の子は私が友達を見送った時間、決まって17時以降に現れた。そして、毎日色々な遊具で遊ぶ彼女。私はその女の子に興味が湧いていった。
私はある日やっと、その子に声をかけることができた。なんと言って声をかけたかは覚えていないが、女の子は最初少し警戒したような様子を見せた後、少しずつ話をしていくうちに心を開いてくれたようで、私は女の子と友達になることができた。また、その子の名前を知ることもできた。
そしてその日から毎日、女の子と公園で楽しく話し、遊びと私たちはさらに親睦を深めた。毎日、決まった時間に公園でしか会うことのできないあの子。だが私は、会えば会うほど女の子に対して好きという感情が高まるのを抑えられなかった。間違いなく、これは私の初恋であった。しかし、友達としても毎日女の子と一緒に遊べるその時間が楽しくてたまらなかったのをよく覚えている。
少し肌寒くなり始めたころ、私は女の子にオルゴールをプレゼントした。そのオルゴールは、学校の図画工作の授業の中で作成した。作るとは言っても、オルゴールを作ったのではなくオルゴールを包む外箱を自分でデザインし、彫刻刀で掘って絵の具で彩色したもの。オルゴールは自分で好きな曲を選び、外箱が完成したら中に設置して完成。
少し出来に自信があった私は「せっかくだから女の子にあげよう」と思ったのである。
ちなみに曲目は「きらきら星」。
今思えば、好きだと告白することが恥ずかしく、贈り物をすることで自分の気持ちに気づいてもらおうとする私の未熟な一面が丸見えで、赤面する思いだ。
そんな私のちょっとしたメッセージの込められたオルゴールを、彼女は喜んで受け取ってくれた。
「嬉しい、大切にするね」
その時の女の子の笑顔を、私は未だに忘れられない。大きな瞳が細められ、その瞳が見えなくなるほどの笑みを私に向けてくれた。
オルゴールをプレゼントした翌日から、凍える思いをするくらいの寒波がやってきたと記憶しているが、彼女は一向に公園に来なくなった。私はオルゴールをプレゼントした時から、やはり言葉で女の子に思いを告げようかと思い始めていたので、彼女が公園に来ない日々が退屈で、そして焦る気持ちでいっぱいだった。前までは当たり前だった夕方の1人遊びが、これほどまでにつまらない、また孤独を感じるものだったことに驚きを感じながら、私は「明日は来てくれるだろう」と信じ、毎日静かな公園で彼女を待ち続けた。
1ヶ月くらい経ったころであろうか。私の「退屈」は「心配」へと変化した。そのため、私は行動に出ることを決意する。女の子の家を訪ねようと思ったのだ。彼女の家に行ったことはないが、話してくれたことがあったので場所は覚えている。私は女の子の家があるであろう場所へと足を進めた。
公園から10分くらい歩いたところに女の子の家であろうその建物はあった。言ってしまうと少し古びた外装のアパートなのだが、彼女はこのアパートの1階の一番奥の部屋に住んでいるはずだった。
「大家さん家の隣なの」
そうあの子は言っていたな、とか、今まで話したことなどを思い出しながら歩いていたら、あっという間に彼女が住んでいるであろう部屋の前に着いた。私は震える手でインターフォンを押す。
ピンポーン
……という音が驚くほど周りに響いたような気がした。そして、沈黙。
しばらく待ったが、一向に女の子が出てくる気配はなかった。私はなんとなく嫌な予感がしながらも、もう一度訪問を告げようとした時、
「どうしたんだ」
声がした。
見ると私の側に1人の老人が立っていて、私を鋭い目で見つめている。もしかして、この老人は大家ではなかろうか。私はそう思って恐る恐る尋ねた。
「あなたはこのアパートの大家さんですか?」
「そうだが、その部屋に何の用だ」
少し怖い雰囲気の大家だったが、そんなことは今の私には関係ない。私は一刻も早く女の子に会いたかった。
「この部屋に住んでいる…………」
……言葉に詰まってしまった。そして、異変に気がついた。なぜだろう、女の子の名前が出てこない。今までは覚えていて、いつも女の子の名前を呼んでいたのに。
私が戸惑っていたら大家は毅然とした態度でこう言った。
怖いです。
女の子のご冥福をお祈りします。
少し怖くて切ないお話ですね
読めて良かったです