廃墟のホテルと人の形をした何か
投稿者:成吉思汗 (2)
私が大学生だった頃、夏休みのある日に友人Aと二人で肝試しに行きました。
行く先は東北の某県にある廃業したホテル、いわゆる廃墟というものです。
目的地までは私の運転で、車で行くことにしました
朝に自宅を出発し、日も落ちる頃にホテルに到着。
駐車をして二人で敷地内に向かったとき、突然周囲が静かになりました
先程までうるさく泣いていた蝉の声すら聞こえません。
私は怖くなり帰ろうと提案をしたのですが、興奮気味のAに押し切られ廃墟の中へと進みます。
探索をしているうちに、日はすっかりと落ちてしまいました。
周囲はすっかり暗闇となりましたが、おかしなことに気が付きます。
廃墟は市街地からは少し離れていたものの、近くに幹線道路があり車通りも多いはず。
どうして少しの光もないのだろうか。
音も光も失われた空間の中、恐怖に侵された私は再びAに呼びかけます。
「もう帰ろう」と。
しかしAは更に興奮しており、私の声が聞こえていないようでした。
このままではまずい。
本能的にそう感じ取った私は、半狂乱状態のAの腕を掴んで外へと走ります。
なにかから逃げるように廃墟から飛び出るも、止めていたはずの車がない。
おかしいここに止めたはずなのに。
恐怖で誰かに助けを求めようとしますが、電話をかけようにもスマホは電池切れ。
私まで狂いそうになりましたが、かすかにエンジンの音が聞こえます。
その僅かな感覚を頼りにまた走り出します。
どのくらい時間が経過したのか。
足が震えてもう動かせないほどになったとき、ようやく車を発見。
急いで乗車しようとしますが、Aが奇声を上げて抵抗します。
その形相に恐れを抱いた私は、先に自分だけ車に逃げ込んだのです。
車のドアを締めた瞬間に聞こえる蝉の声と眩しい朝日、近くを行き来する車のエンジン音。
突然の変化に驚いていると、突然隣からAが話しかけてきたのです。
その瞬間にスマホの画面が点滅し、不在着信の通知がなりました。
疑わしい話ですが、どうやらAは到着間際に眠ってしまい、目が覚めると私がいなかったため、何度も電話をかけたそうです。
すぐにドラレコを確認したところ、そこにはまるで誰かと話しているように一人で会話をしている私が写っていました。
じゃあ一緒にいたのは誰だったのか。
Aの腕を掴んでいたはずの手の中には、一着の汚れたバスローブがありました。
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