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妖怪・風習・伝奇

たけしろのみやさんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

あの山に気づかれてはいけない
短編 2026/02/11 19:55 94view

友人は遠くの景色を眺めるのを嫌う。
なぜか、と問う私に彼は少年の頃に起きたある事件について話してくれた。

彼が生まれ育ったのは東北地方にある山間の小さな集落だった。今では限界集落と呼ばれるような場所ではあるが、それでも彼が子供の頃は同年代の子が10人ほどいたという。同年代の子達とは学校終わりに遊んでいた。田舎特有の陰湿ないじめなども無く、彼らの仲はとても良かったそうだ。

そんな彼らの遊び場の一つとしてよくたむろしていたのが「城山」と呼ばれる小山だった。そこはその名の通り、戦国時代には地方領主の砦が築かれていた場所だったらしいが、今ではその痕跡はなく、いたって普通の山となっていた。ただふもとから15分も歩けば山頂近くまで行けるうえ、その山頂付近は平坦な広場となっており、かなり眺めもよかったのが子どもたちには魅力的だった。

子どもたちは冒険心を沸かせながら山頂まで行き、山頂の広場で思い思いに遊んだ。
昔の話である。大人たちもそんな子どもたちの遊びを止めたりはしない。ただ一点だけ子どもたちに注意することがあった。

「山頂の北東にある小さい祠には近づかないように。」
誰もが皆口を揃えてそう言った。
山頂の広場の北東には子どもの背丈ほどの古い祠があるのだが、その周囲には「立入禁止」の看板と侵入を防ぐためのロープが張ってあった。大人たち曰く、祠の周囲の地盤が緩んでおり、がけ崩れを起こす危険があるとのことだった。

子どもたちは皆愚直にその注意を守っていた。ある日までは。

子どもたちの中でY君という子がいた。

幼いころからやんちゃではあるが聞き分けのいい子で、大人たちにもかわいがられていたが、小学校高学年になるころには乱暴で反抗心に強い少年になっていた。

ある日皆で城山に登ると、Y君は祠の前で高らかに宣言した。
「おいお前ら、俺この先行ってみるわ。」
無論、皆が止めに入る。
「危ないって。そこに入ってがけ崩れを起こしたらどうするんだよ。」
「大丈夫だろ。今まで何年も崩れてないじゃん。」
Y君の気質をよく知っている他の子達にはもう止められない。Y君は皆が黙ったのを見ると満足して勢いよくロープをまたいだ。
何も起こらない。
Y君は当然、という顔をして胸を張る。
そして祠をまじまじを眺めたり、祠の周囲を駆け回ったりし、皆に自分の勇敢さを見せつけているようだった。

Y君が祠の裏手に回ったとき、声を上げた

「おい!見てみろよ!ここからきれいな山が見えるぞ!」
しかし他の子は動かない。誰かが、今は大丈夫だけど自分達もあちら側に行けば重さが増して崩れるんじゃないか、と言う。それを聞いてさらに皆は固まり、Y君の声だけが祠の向こうから聞こえてくる。
「すっごいきれいな山だぞ!真っ白で富士山みたいだ!しかも時々光ってる!お前らも来いって…」
そこで声が消えた。
「Y君?」
皆で呼びかける。しかし返事は無い。もしやこちらから見えないところでがけ崩れが起きて落ちてしまったのでは、そう皆が不安がる。どれだけ待ってもY君は戻ってこない。

子どもたちは急いで山を下り大人たちに事の顛末を話した。彼らは一様に顔色を変える。
ややあってY君の両親が仕事から帰ってきた。父親が切羽詰まった様子で子どもたちに問い詰める。
「Yはどこで消えた!?祠の前か!?後ろか!?」
子どもたちは祠の後ろ側で姿を消したこと、消える直前にきれいな山が見えると言っていたことを話した。
その瞬間、Y君の両親は全身の力が抜けたようにその場に座り込んだ。
「もうだめね…」彼の母親が涙を流しながらそう言っていた。
結局Y君が見つかることは無かった。警察が行方を捜査している様子もあったが、Y君の両親をはじめ、集落中の大人たちがY君の発見を諦めているように思えた。

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