放浪している祖父
投稿者:macoro (1)
私の祖父は、無口でマイペース、そして私たち孫の事を何よりも大切にし、可愛がってくれる人です。
そして祖父には、放浪癖があります。親族との旅行中も、気が付けば姿が見えなくなり、そして同じように気が付けば戻ってきている。そんな自由な人でもありました。
冬休み、私たち一家と親戚で帰郷した際の出来事です。
私と従妹、そして祖父母の四人は、祖父の運転で遠くにある温泉に向かっていました。流石に車でフラフラと放浪するわけではなく、祖父はカーナビに従って車で1時間の道を走り、無事に目的地に到着しました。
私たちは温泉を堪能し、美味しい食事をいただきました。祖父も実に充実した時間を過ごしました。
その帰り道の事でした。
体が温まり、お腹がいっぱいなるまで食事をしたため、祖父は眠気に襲われていました。もしもの事を考え、祖母は道中のコンビニに立ち寄り、コーヒーや眠気覚ましになるものを買おうと提案しました。
店の前で車を止め、祖母は一人でコンビニに入っていきます。
私は体をほぐすために、従妹と祖父を車に残してコンビニの近くを歩くことにしました。
周辺の田んぼを眺めながら歩いていた時、遠くの方から声が聞こえました。祖父の声でした。
彼は私の少し後ろにいて、私の名前を呼んで頬んでいました。
彼と一緒に歩こうかと思いましたが、祖父の放浪のペースに合わせることも無いかと思い、私も自分の気分で足を進めました。
ひと歩きをして車に戻ったら、車内には既に私以外の3人がそろっていました。
祖母と従妹はコーヒーを飲み、祖父は運転席で仮眠をとっているようでした。
外を歩いていた祖父を見ていた私は、今回の放浪はあっけなく終わったのかと少し意外に思いました。
「もう散歩終わりなんて、おじいちゃん相当疲れてるのね。」
そう従妹にいうと、従妹は不思議そうに首を傾げました。
「散歩してたの?ずっと寝てたけど?」
「ずっと?」
「うん。停車してからずぅっと。」
従妹の言葉に私も首を傾げていると、祖母が祖父を起こしました。なんとなく、祖父を揺する祖母の手つきがいつもと違う気がしました。私が知るような熟年夫婦の温かい手つきではなく、どこか遠慮がちな手つきでした。
祖父が仮眠から目を覚ますと、大きくため息をついて、祖母の手を払いました。
「うるさい。やめろ。」
祖父は冷たく言い放ち、雑にエンジンを掛けました。
優しい祖父のこのような不機嫌な姿を見たことがなかった私は、訳が分からず、隣に座わる従妹にメールをしました。
『おじいちゃんなんで怒ってるの』
『いつもこんな感じじゃん』
『全然違うよ』
『いや、だいたい機嫌悪いじゃん』
それを境に、祖父は私の知る祖父ではなくなっていました。
放浪もしなければ、せっかちで、私たちにあまり関心がない人になっていました。
別の世界線に来てしまった可能性も…