アパートに現れるサッカーボールくらいの黒い玉の正体

変な体験をしたのは、今のところこれが最初で最後になります。

私は今年の春にコロナで職場を解雇され、出費を抑えるために安い公団アパートに引っ越しました。
見た目はお世辞にも綺麗とは言えない8階建ての白いアパートに越して来たのは、解雇された翌月のことでした。

引っ越してきてから、不思議なことに気付き始めました。
たまにサッカーボールのような大きさの丸い黒い玉を見かけるのです。
アパートには左右に階段があるのですが、毎日のように階段付近にそれが動いているのです。自分で見に行こうと思ったんですが、途中でフッと消えてしまうので、正体は分からずじまいでした。

疲れているのかなと最初は思ったのですが、何度も見るし、リアルなので、漠然と幽霊ではないだろうかと感じました。私は迷信深い人間ではありませんし、霊感もあるとは思いませんが、古いアパートなので、何か過去があるのではと思い、休日にスマホで写真を撮りたいと思うほど、私自身、当時は突き止めたいと思うほど、その何かにとらわれていました。もちろんこれまで幽霊の写真は撮ったことはありません。

幽霊よりも人間の方が怖い時もあります。というのもそのアパートにはたまに会うのが怖いと思うような気持ち悪い50代くらいの女性がいるのです。

その気持ち悪い女性についてはよく知りませんでしたが、ある夜、エレベーターの中から、暗いアパートの隅っこの方を見ると、黒い玉が現れました。エレベーターの中からでしたので一瞬でしたが、その時、胃に激痛が走ったんです。
私は冷や汗をかきながら、早く家に帰って休みたいと思い、エレベーターが私の住むフロアに着いてすぐに急いで降りようとしました。
その時です。あまりにも非現実的な光景が飛び込んできました。
夜11時くらいだったのですが、部屋の玄関の前にあの黒い玉が浮かんでいるのです。
よく目を凝らしてみると、その気持ち悪い女性がいたのです。

急に向こうへ走り出し、階段を下って行きました。私はあっけにとられ、彼女がドアの所で何をしていたのか、分からず、茫然としていました。

それ以来、黒い玉がちょくちょく私の前に出るようになりましたが、それが彼女の後頭部だったと気付いたのは、それから間もなくでした。