これは私がパートの仕事を探していた時の話です。
当時事務の仕事を探していた私は、バスで10分程の所にある不動産屋の事務所のパートに応募しました。
勤務地、勤務時間、時給、その他諸々好条件な求人だったので、期待に胸を膨らませて面接に行きました。
面接は事務所内で行われました。
まず、中に入っての第一印象は「事務所内が暗すぎる」でした。
電気はちゃんとついているし、日当たりが悪いわけでもありません。それなのに妙に事務所内が薄暗いのです。
そしてもうひとつ気になったのが、ずっと変な匂いがするのです。
何の匂いかと言われると、嗅いだことのない匂いだったので説明が難しいのですが、とにかく嫌な匂いが充満していました。
しかし事務所で働いている方達は、そんな強烈な匂いなのに麻痺してしまっているのか気にしていないようでした。
面接を担当してくださった方は明るく話しやすい中年男性でした。
が、明るいのは雰囲気だけで、ずっと暗い顔をしていたのが印象的でした。まるで一生懸命明るい人を演じているような話し方で、実際は疲れが溜まっているのか物凄くやつれた顔をしていました。
その面接の途中で、あることに気づきました。
事務所の奥の棚から、誰かがこちらをじっと見ているのです。
その人は棚の後ろに身体の左半分を隠し、右半身だけを出してこちらを見ていました。
石膏のような真っ白な肌に同じく真っ白な服を着て、腰くらいまである長い黒髪をだらんと垂らした中年女性でした。
その女性が目をこれでもかと見開いてこちらを見ているのです。
さすがに面接中ということもありあまり気にしないようにしていたのですが、どうしても視界に入ってきます。そしてそのうちに、女性が小さく唇を動かしていることに気づきました。
唇の動きから察するに
『カエレ』
と言っているようでした。
その女性のことがどうしても気になってしまい、話に集中できなくなった私は理由をつけて面接を中断し帰ることにしました。
その時に面接担当の方が、はじめて真顔になりました。
そして、あの女性がいる棚を指さして言いました。
「もしかして、あれが見えるんですか?」
そう言われて改めて見た時には、もう女性はいませんでした。
そして改めて棚をじっくりと見て気づきました。
棚は後ろの壁にぴったり沿うように置かれているので、半身だけ棚の後ろに隠して立つなんてできるわけがないのです。
その後、改めて面接に来ないかと連絡がありましたが断りました。
その不動産屋は、それから一年もしないうちにボヤで怪我人を出し、そのまま潰れました。
結局あの女性がなんだったのかは分かりません。
























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。