忘れられない酒盛りの光景
投稿者:オアシス (1)
私の母と祖母は、2人で割烹を営んでいた。
とある事情から店を移転することになり、母は移転先候補の店舗を何ヵ所か見て回っていた。
その内の数店舗は、私も母に連れられて一緒に見に行ったことがある。
中にテーブルや椅子などの備品や設備がそのまま残った状態の店舗ばかり見ていたので、居抜き物件を中心に探していたんだと思う。
これから話すのは、その中のある店舗を見た日の晩に見た夢の話。
その店舗はとある雑居ビルの中にあった。
元スナックだったようで、テーブルや椅子がそのままの状態で残っていて、カウンターには酒瓶も何本か残ったままだったと記憶している。
カウンターの酒瓶については記憶が曖昧。もしかしたら残っていなかったかもしれない。
その店舗が入居する雑居ビルを見た時から何となく嫌な雰囲気を感じていた。とにかくビル全体が暗い。店舗の中に入った時は少し寒気を感じたのを覚えている。
店内も全体的に暗い感じで、母には申し訳なかったが、私は早くそこから出たくて帰りたくて仕方がなかった。
母は店舗内を一通り確認し、その日はそのまま帰宅した。
その晩、私は一人でその店の中にいる夢を見た。
店の中は真っ暗で、椅子やテーブルはひっくり返っており荒れた状態だったが、店内の中央部分だけがスポットライトが当たったように明るく、そこに真っ白な着物を着た男が5~6人ほど、丸く輪になって酒盛りをしていた。
男達は何か話をしながら酒を飲んでいたが、不思議なことに話し声などの音が全く聞こえなかった。
口を動かしているのが見えたので、間違いなく何か話をしていたと思うのだが、私には全くの無音だった。
私はカウンターに潜り込んで男達の様子を伺っていたが、男達は間違いなく話をしているのに、全く音が聞こえないことが急に恐ろしく感じてきた。
今すぐこの場から逃げ出さないと大変なことになると思い、男達に気づかれる前に逃げ出そうとした。
だが、逃げる時に何かを踏んでしまい、「ジャリ!」と大きな足音を立ててしまった。
音を立ててしまった瞬間、輪になっていた男達が一斉に私の方へ振り返ろうとし、ヤバい!見つかる!と思った瞬間に目が覚めた。
目が覚めた時はビッショリ冷や汗をかいており、とにかく恐くて恐くて、しばらく動悸も治まらなかった。
そんな変な夢を見たので、私はあの店がとにかく恐くて、母があの店への移転を決めないことを願っていた。
その後、母は条件の良い別物件を見つけたので、その店に移転することはなかった。ホッと一安心したのを憶えている。
本当にあの夢は恐ろしかった。
あの夢から十数年たった今でも、時々夢の中の酒盛りの光景を思い出す。
あの男達は誰だったんだろう。
あのまま夢から覚めなかったら、男達に見付かった私はどうなっていたんだろう。
母があのままあの店に移転していたら、どうなっていたんだろう。
時々思い出すけれど、二度と見たくないはない夢の話。
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