この店では、誰も名前で呼ばれない。
スタッフは全員、番号で管理されている。
「7番、声が違う」
「12番、最近動きが遅い」
「3番、私情が出てる」
店長はそれを“改善”と呼ぶ。
壁のモニターに表示される数値を指さして、
「ズレてきたね」と穏やかに言うだけだ。
ズレた番号から、順に消える。
理由は誰も聞かない。
聞いた人からいなくなるからだ。
ある日、隣で働いていた3番が来なくなった。
十代の頃からこの店にいて、
誰よりも接客が上手かった女だ。
送別も連絡もない。
翌日、マニュアルが更新された。
「理想動作モデル:3番」
それから、店の空気が変わった。
私たちは、3番の話し方で喋る。
3番の間で笑い、
3番の癖で立つ。
気づいたのは、
自分の声を録音して聞いたときだった。
そこにあったのは、
私の声じゃなかった。
最近、同じマニュアルを導入した店が
駅前にいくつも増えたらしい。
研修動画も、別のチェーンで使われ始めたと聞く。
今年は、高校生の新人も多い。
最初からこのやり方しか知らない世代だ。
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