と、他の同級生達も笑い出した。
驚いたが、何事もなければ、それが1番いい。
私も——なんだ、そんなことか。と安心していたら、急に後ろからドライアイスのような冷気をふわりと感じた。
そして冷気はどんどん強くなり、寒くて呼吸は苦しくて、段々とモスキート音のような耳鳴りも大きくなって行く。
トンネルの中は湿っていて、水滴が落ちてくるので、ぴちゃん、ぴちゃんと音がしていた。今聞こえる音も水滴の音だと思いたかったが、何故かその音は後ろからどんどん近づいてくる。
——やっぱり、来るんじゃなかった……。と後悔した。
同級生達が騒いでいるのに、その声は何かに遮さえぎられたかのように遠くなり、水滴が落ちる音だけが、やたらと響いて聞こえる。
まるで頭の中で音がしているようだ。
自分の方へ水の音が近づいてくるにつれ、それは水滴が落ちる音ではなく、誰かが水溜りを踏ふんだ音だと分かるようになった。
音は少しずつ大きくなり、そして、私のすぐ後ろで止まった。
背中に感じる冷たいものは、無数の細い針でちくちくと刺してくるような感じに変わって行く。痛くて余計に呼吸がしづらくなった。
その時、はぁっ、と寒そうな呼吸音がした。
右耳のすぐ後ろで——
たしかに自分以外にも3人いる。呼吸音がしてもおかしくはないのだが、全員目の前にいる。右耳のすぐ後ろで呼吸音がするのは、おかしい。
——真後ろに、何かいる……。
そう思ったが、こちらを向いている同級生には、何の変化も見られない。私の後ろに何かいるのなら、何らかの反応があるはずだ。
おそらく皆何も見えていない。それは、生きているものではないということだ。
そして、私はまるで冬の川の中にいるようで寒くて震えているのに、同級生達は誰も寒そうにはしていない。
異変を感じ取っているのは、きっと私だけなのだろう、と思った。
後ろにいるものの正体が分からないのも怖いので、振り返りたいが、振り返ると、もっと恐ろしいことが起こる気がした。
——絶対に、顔を見てはいけない。
何故だか分からないが、そういう予感は普段からよく当たっていたので、逆らわなかった。自分だけにしか分からないものの恐怖と、寒さで動けない。
するとその時、冷たくて細いものが肩甲骨の真ん中辺りに、ふわりと触れた。
一気に全身の毛が逆立つ。
「うわっ!」
と、思わず大きな声が出ると、それまでは金縛りにあったように動かなかった身体が、急に動くようになった。
逃げるなら今しかないと思い、私が全力で走り出すと、同級生達も怖くなったのか、叫び声を上げながら一緒に走り出す。
走る間、風鳴りがうるさかった。女の人が叫ぶような高い音と、唸うなっているような低い音も聞こえる。
何かの言葉のようにも聞こえたが、聞きたくなかったので、風の音だと自分に言い聞かせた。
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。