ジュースのおばさん

逮捕されたジュースのおばさんの部屋を確認した際、そのサッカーボールが見つかったのである。

母親はそのサッカーボールだけを頼りに、息子を死に追いやったボールの持ち主を探し、復讐すると決めたのだ。
周りの大人に聞けば犯罪を疑われるのではないかと、ターゲットを子供達にしたのだという。

切り付けられた男の子も「トウヤ」自身なのか、それは分からない。ただ一つ言えるのはトウヤはあのおばさんの「取り返したい息子」でも何でもなく、「殺したいほどの復讐相手」だったのだ。

俺達は背筋を凍らせながら、学校へと戻った。

先生「今日した話は誰にも言わないこと。今後は何があっても個人情報を他人に漏らすことの無いように。」

俺達は以後、その事件を2度と口にする事はなかった。いつしか、その事件のメンバーだったみんなとも少しずつ距離が広まっていった。みんながどうなったか、トウヤがどうなったか、ジュースのおばさんがどうなったかも、俺は、俺たちは何も知らない。

そして大人になった今。
仲良く親子2人でジュースを飲んでいる嫁と子供を見ると、当時恐怖としか思えなかったジュースのおばさんも、今では悲しさを覚えてしまう自分がいる。

あのおばさんも、本当は息子とジュースを飲みたかったんだろう。